保育士という職業に就いていて、最も悩むのは保護者からのクレーム対応ではないでしょうか。頭に血がのぼった保護者から早口でまくしたてられて、こちらも早口で応酬し、結局物別れに終わり、最終的には先輩職員や園長まで登場する始末に……!なんていう修羅場を体験したことがある保育士さんも多いはず。
そんな修羅場に陥らないようにするためには、どうすればいいのでしょうか?実は、保護者からのクレーム対応には基本原則があったのです!本記事を熟読すれば、保護者からのクレームももう怖くない!
クレームを言ってくる保護者の心理とは?
紀元前に書かれた『孫子の兵法』の中に「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」という一節があります。戦いに勝つにはまず相手を知り、自分のことを理解すれば良いという意味です。
保護者からのクレーム対応は戦争ではありませんが、考え方を置き換えることで見えてくるものがあります。まずは、クレームを言ってくる保護者の心理を探ってみましょう。
一つのクレームの裏に10倍のクレームが潜んでいる!?
むかし、ある殺虫剤のCMで「ゴキブリは一匹見つけたら、その20倍はいる」なんてフレーズがありましたが、保護者からのクレームというのはまさにそんな感じかもしれません。
保護者はふだん文句を言うのを我慢しています。なぜなら、保護者にとっては園に子どもを人質にとられているようなもの。クレームを伝えるのはなかなか勇気がいるものなのです。
ですので、ひとつでも何か言ってきたのだとしたら、本当は、その他にも言いたいことがその何倍もあるものです。数ある言いたいことの中から、「これだけはどうしても言いたい」ということだけを選んで言ってくるのです。
当然、クレームを認めてほしいと思っている!
要求やクレームを伝えてくる人というのは、不満を持っているから言うのです。その不満の気持ちを伝えて、気持ちを認めてほしいのです。そして受け入れてもらいたいから言っているのです。
クレーム要求が受け入れられなかった時の保護者の心境は?
「言いたいことは言ったけれど、先生は素直に認めてくれないし、反論してばかり。水掛け論になってしまって、自分も何か問題点なのかわからなくなっちゃった。結局はどうしてくれるのか、何もわからない。要するに何も改めてくれないってこと?これでは何のために言いに来たのかわからない」。
話し合いが物別れに終わってしまった後というのは、保護者の気持ちはこんな風になっているものです。「物別れに終わる」とは、要するに結論がうやむやになってしまったことを意味しています。どちらも傷つかない、ある意味便利な終わり方ではありますが、建設的な結果は何も出ず、何も生み出さない終わり方でもあります。
保護者からクレームを受けた時,新人保育士が陥りがちなNG心理
クレームを言ってくる保護者の心理をおさえたところで、ここからは、そういった保護者のクレームを受けた時、新人保育士が陥りがちなNG心理についてお伝えします。自らの心理を事前に予測することにより、余裕のある対応ができるようになることが目的です。
保護者の理不尽な要求→全力で否定したくなる!
何か要求やクレームを言われた時に、人が最初にしてしまいがちなのは、その言い分を認めようとしないことです。何かを言われて、まず、それを謙虚に受け止めよう、と心がけている人は意外と少ないのです。
とっさに反論したり、顔色が変わったり、「違います!」といった否定の言葉が一番に出てしまうものです。
保護者が興奮→保育士も興奮!早口になる!
テレビの討論番組などでよくありますが、「論争」となった時に、言い合っている人達は、お互いにとても早口でしゃべっています。特に自分が攻撃された側は、言われたほうはもっと早口になり、割り込むようにして言い返していますよね。聞いているほうは、相手が何を言っているかわからないことも。
以上の例でもわかるように、相手の言葉を早く訂正したい、自分の言い分を早く伝えたいと思った時、人はどうしても早口になってしまいがちです。
さらに早口で言われた人は、早口で反論するようになりますので、相手はもっと早口になっていきます。お互いにヒートアップして、まさに論争になってしまいます。人は興奮すると早口になり、早口は相手をさらに興奮させて、話の解決をより遅くしてしまいます。
クレーㇺをつけてきた保護者につい阿りたくなる!
「◯◯くんがうちの子を蹴ったみたいです!ちゃんと謝らせたんですか!?」というような、子ども同士のケンカの時のクレームもあれば、「◯◯ちゃんのママとうちでは教育方針が全く違う。悪影響を受けないように、クラス替えをして下さい!」というように、保護者同士が対立している場合もあります。
保育士の心情として、クレームを言ってきた保護者の味方をしてしまいたいでしょうが、ちょっと待って下さい。どんな場合でも、保育士は中立の立場に立ち、どちらかの保護者の話を鵜呑みにしてはいけません。
保護者からのクレーム対応心得
クレームをつけてくる保護者の心理とその時の保育士の心理を理解した上で、ここからは保護者からのクレームがきた時、どのように対応すれば丸く収まるのか、考えていきたいと思います。保護者からクレームがきた際の初動~終結までをまとめます。
保護者からのクレームに否定語は禁止!
保護者から何か要求やクレームを言われた時に、保育士が決して言ってはいけない言葉があります。それは、「でも」「違います」「そんなことはないです」「それはできません」といった、いわゆる「否定言葉」です。
ちなみに「どうしてですか」「何をおっしゃるのですか」「(では)どうすればいいのですか」といった言葉も否定言葉です。一見すると単なる 疑問文のように思うからもしれませんが、それらは「私はそれを認めていない」ということを伝える言葉になるからです。
保護者とのトラブルが大きくなってしまう原因は、元をただすと、まず保護者が何かを言ってきて、その時の保育士の対応やリアクションが良くなかったがために起きることが案外多いのです。何気なく言ったささいな言葉や、ちょっとした否定の言葉が、相手にとっては許しがたい発言になってしまうものです。
まずは事実を認めよう
どんなにわがままな要求や、どんなに理不尽と思われるクレームが来たとしても、まずはそれを謙虚に受け止めること。受け止めるというのは、「言う通りにする」ということではありません。「そんなことを言ってきた」という事実を素直に認めるだけでいいのです。事実を、ただ、丸ごと受け止めるのです。ショックを受ける必要もないですし、興奮する必要もありません。
具体的には、肯定的な言葉を保護者に返すという手法があります。肯定的な言葉というのは、例えば、「そうですね」「そうですか」「本当ですね」「それは大変ですね」といった言葉です。これらの言葉はいずれも「その言い分を認めます」「丸ごと受け止めました」という気持ちが伝わりますよね。
もちろん「わかりました」というストレートな言い方も、保護者の満足感を高めるでしょう。単純に受け止めてしまえば、とりあえず相手を怒らすようなリアクションが出にくくなりますし、余計なトラブルにまで発展することもなくなるでしょう。
ゆっくり話す
保護者からのクレームは早口になりがちですし、言いたいこともごちゃまぜになりがち。聞き取りづらいことが多いです。そうなると、保護者が一番言いたいことは何なのかが、どうしてもわかりづらくなってしまいます。その結果、的はずれな妥協案を提示してしまい、さらに怒らせてしまうなんてことも…。
そういう時、保育士であるあなたがゆっくり話せば、相手もペースダウンしてゆっくり話してくれますので、保護者の主張を把握しやすくなります。嫌なことを言われた時ほど、平静を保って、意識してスローダウンを。落ち着いてゆっくりと話すようにすることで、おだやかな話し合いになっていくはずです。
OKのものには素直にOKを!
保護者からのもっともな要求や、それを取り入れても何のさわりもない要求というのは以外とたくさんあるものです。例えば「子どもの洋服が汚れるような外遊びをする日は事前に連絡がほしい」、「行事の日は、トイレの案内がほしい」といった要求です。
問題なく、実現できる要求に対しては、素直に「はい」と受け入れいきましょう。保護者からのクレームはむげには断らずに、実現できるもの、検討の余地があるものに関しては、「イエス」をきちんとしていくことで、保護者の満足感が高まりますよ。
保護者からの要求=複数ある場合はひとつだけでも受け入れられないか検討を!
保護者からの要求やクレームは、突拍子もないことや素直に聞き入れにくいものが多いものですよね。だからといっても、いつも「ムリです」や「それはできません」とばかり言っていたのでは、保護者も「この保育士さんは、いつも何も聞き入れてくれない」と思ってしまいます。
例えば、保護者から要求を3つ求められたら、ひとつは「却下」、ひとつは「保留」、そして、最後のひとつを「OK」、というバランスを保つといいのです。
3つのうち、却下されたのはひとつだけなので、後の2つの「保留」と「OK」については、受け入れられたような気持ちになって、保護者に「いつも要求を取り入れてくれる」という印象を与えることができます。
これが、「却下」がない代わりに、「OK」もないというのであれば、「いつも何も聞き入れてくれない」といった、保護者に全く逆の印象を持たれてしまうのです。
何らかの着地点をつけること
保護者からの要求やクレームに対しては、はっきりした結論でなくてもいいので、何らかの着地点を作ると、とりあえずはお互いが気持ちよく話し合いを終えることができるでしょう。
保護者からの言い分が全面的に認めることができないものであったとしても「これから気をつけて見ておくようにします」、「では園長にもそのように伝えておきますね」などという言葉で話が終われば、一応相手も納得してくれるはずです。「わかりました、○○ということですね」と、認められるところを、復唱して言うのも効果がありますよ。
保護者からのクレーム対応~保育士の気持ちの持ち方~
子育て中の親は、当然子どものことが心配です。要求やクレームというものは、あって当たり前なのです。保育士は、保護者から要求やクレームが来ても、必要以上にショックを抱いたり、嫌な思いをしたりする必要はないのです。相手を否定せず、事実を認め、共感し、どうにか解決の道を探ろうと懸命に頑張る保育士の姿勢を、保護者に見せることが大切です。
保護者からのクレーム対応の心得をまとめてきましたが、やはりかなり気を付ける項目が多く、「自分にちゃんとできるのか」と不安になってしまった新人保育士さんもいらっしゃるかもしれません。実際、この一つ一つを実行することは大変なことです。困ったら、先輩保育士や園長先生に助けを求めてもOKです。一人で抱え込まず、積極的に相談して少しずつクレームへの対応力を身につけていきましょう。