ばんそうこう保育 保育の見えない落とし穴(後)

保育士おとーちゃんの「保育の力」って何だろう?


前回に引き続き、「幼児クラスが大変」なことが、保育士を疲弊させてしまっている問題と、その解決方法を探っていきます。


前回のおさらい。



昨今の保育園では、特に幼児クラスが安定せず保育が難しくなっています。その対処として保育士が子供たちを「押さえつける保育」になりがちで、それは親や子供への否定的な見方を生んでいます。また、こうした背景は保育士が疲弊する原因ともなっています。こういった場当たり的、対症療法的に、問題点にばんそうこうを貼っているだけの状況を「ばんそうこう保育」と名付けました。


これを根っこから解決していくためには、幼児クラスへの対応に終始するのではなく乳児クラスへの注力が必要です。

ばんそうこう保育 保育の見えない落とし穴(後)

安定しない幼児期の原因は現代の乳児たちの姿にある



安定しない幼児保育の原因は、その子たちが幼児になるまでの積み上げが不足している状況、つまり3歳未満児保育が適切に行われてこなかった、という点にあります。
具体的には...


・愛着形成の不全
・大人への基礎的な信頼感が持てていないこと
・肯定不足

これらが根っこにあり、それが次のような問題を派生させています。


・安心感の不足
・情緒の不安定
・攻撃的な姿
・生活する力の身につかなさ

発達というのは積み重ねが重要です。例えば、そもそも愛着形成のところでつまずいている子は、大人への信頼感を厚くしていくことは難しいです。また、周囲の子供との関わりも不安を覚えるものになります。


こうした原因から噛みつきが出ている子に対して、いくら噛みつきが良くないことを伝えたところで、それが身につくことはありません。


あくまでも、その子の問題の根っこへのアプローチからしていく必要があります。


事例から考える



実際の事例から考えていきましょう。


信頼感、愛着形成が不十分だった1歳6カ月女児 Aのケース



1歳児クラスから入園。
保育時間は7時30分~18時30分。しばしば迎えが遅くなる日もあり、スポット保育で19時まで預かることもある。週5日登園。

父親は仕事で不在がちで、ほとんど母親が子育てにあたっている。
その母はあまり子供に関わるのを好まないようで、終始笑顔やくつろいだ様子も見せない。

Aに直接怒ったり、叱りつけたりすることは多くないが、意に沿わないAの行動に対して無視したり、置いていく素振りをして言うことを聞かせようとしたり、「○○しないと△△してあげない」といった疎外を使って対応している。


Aは、園で自分勝手な行動を取ることが多い。しかし、ゴネや大人への依存という感じよりも、保育士に対しても関心が低い様子。

他児への噛みつきやひっかき、モノを取って反応を見るなどの行動が顕著。


対応として



ゴネや保育士への依存として出すのであれば、まだ他者への期待を持っている表れであるが、Aは保育士を始めとした大人への期待や信頼が薄い。このことは、他者への信頼感の形成や愛着の形成が不十分な可能性を示しており、そこへのケアが必要と考えられる。


また、Aの度重なるネガティブな行動は、大人からの否定的な関わりの多さが背景になっていると考えられ、そこに対して保育士が意図的に肯定のアプローチをする必要がある。


そこで、担当の保育士との関係を重視し、生活面や遊びにおいても保育士とのつながりを意識した関わりを継続していく。また、肯定的なアプローチに重点を置く。


経過



これを継続することで、それまでの保育者への無関心な状態から、ゴネや甘えの姿が出るようになる。甘えといっても当初は可愛らしい出方ではなくネガティブな出し方で、保育者も受け止めるのがしんどい類のものであるが、担任同士で補いながら続けていく。


その後、保育者へ後追いのような姿や、ゴネではなく甘えて泣くといった姿も見られるようになる。また、笑顔が出るようになり、他児ともおだやかに関わる姿も出てくる。


子供たちの心の成長を担保する



このように、心の成長や安定を長期的な視点で見すえ、そこに援助をしていくこと。
これを幼児クラスに移行するまでに重視し、積み重ねていくことが、結果として幼児クラスの安定を作り出します。


現状の保育施設においては、生活面や行動面を「できるようにする」ことに重点が置かれており、心の成長や安定、特に「手のかかる子」へのケアは後回しということもあるようです。


また、行事中心の保育運営を行っている施設では、どうしても行動面で子供たちが要求されることが増え、このような心の成長のつまずきを抱えている子は見落とされやすいです。


場合によっては、疎外や、園生活の中での否定がより積み重なり、かえってその子の根っこにある問題を大きくしてしまうことにもあります。


しかし、本来はこうした心の安定や情緒面に注力することこそが、現代の保育として欠かせないことです。長期的には、こうしたアプローチが保育施設全体の安定度を生み出し、無理のない保育は保育者の負担軽減にもつながるのです。


この「心の成長を担保する」役割こそが、現代の保育者が最も重視すべきことで、それができることが保育の専門性だと言っても過言ではないでしょう。


そのために保育者が配慮すべきこととしては、さらに以下の3つを挙げます。


 ●肯定不足
 ●保護者への子育て支援
 ●自主性・主体性の保育
 
これについてもまたの機会に見ていきたいと思います。


プロフィール


保育士おとーちゃん(須賀義一)

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1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。

現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。

著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。

東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。


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