保育士さんのお仕事は昇給・昇格しづらい職業の一つに数えられます。東京都の調査によると、保育士さんの退職理由で最も多いのが「給料が安い」でした。ただし、2017年に「保育士等の処遇改善」が始まるなど、近年は昇給や昇格が急速に進みつつあります。そこで今回のコラムでは保育士さんの昇給・昇格の実態を踏まえ、保育士さんがキャリアアップするにはどうしたらよいのか考えてみました。
保育現場における、昇給の実情
保育士の昇給事情は、一般的には年功序列のように、経験年数によって徐々にアップしていくところが多いようです。ここでは、昇給について詳しくみていきましょう。
昇給について
公立保育園では毎年昇給がされており、安定的に給料が上がっていきます。一方で、私立保育園の昇給はそれぞれの法人のルールで行われています。法人によっては毎年とは限りませんが、3年・5年など区切りの年数に合わせた昇給が行われているようです。
どのくらい昇給する?
2017年の賃金構造基本統計調査から、経験年数による給与を算出してみたところ、保育士さんの昇給は5年間で月額約1万円ほど昇給しているようです。ただ、経験年数10~14年と経験年数15年以上の給料とを比較すると、昇給の幅は月額約4万円ほどになり、賞与の支給額も約25万円ほど上がっています。これぐらいの年数になると園長・主任などの役職についている人が多いため、役職を得ると一気に給与が上がるという傾向のようです。
こちらのデータは全国平均のものなので、主要都市の場合はもう少し上がるでしょう。また、2017年より開始された保育士の処遇改善がまだこのデータには反映されていないので、実際の給与はもう少し上がると思われます。
保育士さんの昇格が難しい理由とは?
昇給するためには、主任や副主任などに昇格を目指すことが早いというのが分かりました。
ただし、保育士さんが昇格するのにはそう簡単ではない理由があるようです。こちらでは保育士の昇格・昇進について考えてみました。
昇格したくてもできない人も
昇格するのが難しい理由はたくさんあります。例えば、職員の数が少ないのでポジションが動かない、家族経営の園で働いているため園長をする人が決まっている、園で昇給や昇格の規定がないなど、昇格をしたくてもできない理由がたくさんあるようでした。また他にも、保育方針が合わないと感じたり、上に上がると子どもと直接触れある時間が減ってしまう、書類などの事務作業が増えるなどの理由で、昇格をためらっている保育士さんもいるようです。
主任保育士にはほぼ8年必要、でも平均勤続年数は7.7年
保育士さんの平均勤続年数は7.7年となっており、主任保育士に昇格する経験年数の目安である8年のキャリアを積む前に退職している方が多くなっています。ある程度の経験を積む前に退職してしまうこと、昇進するまでの年数が多いこと、保育士が昇進するための役職が少ないことも、昇格を妨げている理由と言えるでしょう。
保育界の昇格に明るい兆しが!
しかしながら、2017年に「技能・経験に応じた保育士等の処遇改善」が施行されたことにより、原則すべての認可保育園には「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」という3つの新たな役職が追加されることになりました。副主任保育士・専門リーダーの経験年数の目安は7年以上、職務分野別リーダーについては3年以上と、保育士さんにとっては一気に役職につきやすい環境になりました。昇給に関しても、前者は月額4万円、後者は月額5000円のベースアップと、かなりの処遇改善となっています。
もちろん昇格には経験年数の他にも条件が伴いますが、保育士さんの昇進・昇給に対するハードルが下がり、退職理由として最も多かった「給料が安い」という不満の解消につながるかもしれません。
保育士のキャリアパス
保育士さんのキャリアは、以下のように昇格していきます。
・副担任、サブ、フリーなど担任以外(経験~1年)
必要な要件:日常の保育業務、職場理念や必要制度の理解、ルール・マナーの順守など
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・クラス担任(1年以上)
必要な要件:初任者の保育指導、専門知識と技術の向上、保育指導計画の立案・評価など
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・職務分野別リーダー(3年以上)
必要な要件:担当する職務分野の研修を修了、修了した研修分野に係る職務分野別リーダーとしての発令など
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・副主任保育士 又は 専門リーダー(7年以上)
必要な要件:職務分野別リーダーを経験、キャリアアップ研修の修了、副主任保育士又は専任リーダーとしての発令など
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・主任保育士(8年以上)
必要な要件:研修の企画・実施、他部門や地域関連機関との連携、園長補佐、組織の強化と部下の育成など
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・園長(10年以上)
必要な要件:園内の調整全般、保育士の管理・指導、経営・運営、保育に対する深い理解と経験など
昇格するにはどうしたらいい?
では、キャリアアップするにはどうしたらよいのか考えてみました。
経験を積む
まずは役職ごとに求められている経験を積みましょう。例えば、入職してまだ経験が浅く、クラス担任を目指している方であれば、通常の業務や園、保育のルールなど基本的なところ全般をまず理解しましょう。そして、目指しているクラス担任の保育士さんがどのように仕事をしているのか学びながら、保育士としての経験を積んでいきましょう。
資格や研修でスキルアップ
昇格に役立つ資格を取得したり、研修でのスキルアップするという方法もあります。研修で保護者のサポートのことを学んだり、チームマネジメントを学び、同僚や部下が気持ちよく仕事ができるような技術を身に着けましょう。
園長を目指す方であれば、福祉簿記の資格を社会福祉法人の会計業務に役立てたりしていくことで、キャリアアップにつながるでしょう。また他にも、絵本専門士や運動保育士、イングリッシュエキスパート保育士など、自分の得意分野を活かしながら資格を取得することでさらにスキルアップすることもできます。
転職でキャリアアップという選択肢もあり
経験やスキルに自信はあるものの、今の園で上のポジションを目指すのが難しい場合は、思い切って転職を考えてみましょう。転職で主任や園長などの募集に応募すれば、昇進するまで待つよりも早く昇格できるかもしれません。また、最近増えている新規園での募集であれば主任や園長の募集がある上に、自分自身で園を作り上げていくこともできます。
昇給・昇給はこれまでよりしやすくなった!
これまでは、上のポジションを目指したい保育士さんもなかなか昇格できずにいた状況が続いていましたが、より昇格・昇給しやすい環境になってきています。年功序列で給与が上がっていくのが基本と言われる保育業界ですが、新しいポジションの追加、昇格の条件に研修の修了があったりと、頑張りが評価されやすくなったことも大きな変化と言えます。
これまで以上に目標を持って保育の仕事に向き合い、学んでいきながら、昇給・昇格を目指してはいかがでしょうか。