保育士の役職昇格をサポートする「保育士等キャリアアップ研修」制度がスタートし、保育士の昇進・昇給、また処遇改善がすすんでいます。今回は、このキャリアアップ研修の制度について、実際にどのくらい給料に反映されるのか、厚生労働省のガイドラインなどをもとに解説します。また、研修の詳しい内容や、修了証の期限についてもまとめました。
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■目次
保育士等キャリアアップ研修とは?
キャリアアップ研修とは、政府による処遇改善制度の取り組みの一つ、処遇改善等加算によって作られた制度です。
処遇改善等加算には、処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ、そして2022年から始まったⅢがあり、キャリアアップ研修は処遇改善等加算Ⅱによって策定されたものとなります。
これまで一般的な保育士のキャリアがクラス担任などの保育士、主任保育士、園長(制度上での役職は主任保育士、園長のみ)だったことに対し、2017年4月に創設された処遇改善等加算により、新たに3つの役職が追加されました。
つまりキャリアアップ研修とともに新役職が配置され、若手や中堅の保育士がキャリアを積み上げやすくなったといえるかもしれません。
会場での研修だけではなく、スマホやタブレットを使用したeラーニングでの学習も可能となりました。
また、キャリアアップ研修は、保育の専門的知識の向上や、保育士の要望で多い「給料の改善」を目的としたものでもあるでしょう。
厚生労働省などの資料を参考に、くわしく紹介します。
保育士等キャリアアップ研修における分野別の内容
保育士等キャリアアップ研修には全部で8つの分野があり、1分野の受講時間は15時間以上となっています(研修期間2~3日)
分野別に研修内容をみていきましょう。
乳児保育
主に0歳から3歳未満児向けの保育内容に関して理解を深める分野です。
具体的には乳児保育の役割と機能や、乳児保育における安全な環境、保育所保育指針について、全体的な計画に基づく指導計画の作成などを学びます。
幼児保育
主に3歳以上児向けの保育内容に関して理解を深める分野です。
具体的には幼児教育の現状と課題や、一人ひとりの発達の特性に応じた指導、資質と能力を育むための保育内容、小学校教育との接続を学びます。
障害児保育
障害児保育に関する理解を深める分野です。
具体的にはこどもの発育・発達の理解と保育計画の作成、保育所における感染症対策ガイドラインの理解、事故防止及び健康安全管理に関する組織的取組、災害への備えと危険管理などについて学びます。
食育・アレルギー対応
食育やアレルギー対応に関する理解を深める分野です。
具体的には食事摂取基準値と献立作成、調理の基本や、衛生管理の理解と対応、アレルギー疾患の理解、第4次食育推進基本計画などについて学びます。
保健衛生・安全対策
保育衛生・安全対策に関する理解を深める分野です。
具体的には乳児保育の役割と機能や、乳児保育における安全な環境、保育所保育指針について、全体的な計画に基づく指導計画の作成などを学びます。
保護者支援・子育て支援
保護者支援・子育て支援に関する理解を深める分野です。
保育所の特性を活かした支援や、保護者に対する相談援助の方法と技術、虐待の予防と対応など、また「子どもの貧困」に関する対応についても学びます。
マネジメント研修
マネジメント・リーダーシップを身につけるための分野です。
組織マネジメントの理解、関係法令・制度および保育指針等についての理解、職員への助言・指導、職員のメンタルヘルス対策などについて学びます。
保育実践研修
保育の展開を行なうために必要な能力を身につけるための分野です。
子どもの感性を養うための環境構成と保育の展開、身体を使った遊びに関する実践方法、言葉・音楽を使った遊びに関する実践方法など
このように、キャリアアップ研修では多岐に渡る分野の研修を受講できるようです。
自分の担当しているクラスや園の状況に合わせて、深めたい内容の分野を受講するとよいかもしれません。
保育士等キャリアアップ研修の受講対象者と新役職になるための条件
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キャリアアップ研修を受けるうえで、対象となる保育士さんや新役職に就くための条件をみていきましょう。
キャリアアップ研修の受講対象者
キャリアアップ研修は、初任後から中堅までの保育士さんを対象としています。
園の状況に合わせて受講分野を決定できますが、経験年数や役職によって受講対象となる分野が異なるようです。
また、「保育実践研修」については、保育の実務経験が少ない方や潜在保育士さんが対象となるようです。
他にも、副主任保育士であれば、将来的に主任や園長など園の中核を担う人材を目指すために、「マネジメント」の受講が必須となります。
新役職になるための条件
それぞれの役職へのキャリアアップの条件は下記のとおりです。
役職によって、求められる経験年数や、受講する研修科目が異なることがわかります。
研修を受講する際には、科目数や分野に気をつけるとよさそうですね。
保育士等キャリアアップ研修受講で給料はどう変わる?
キャリアアップ研修を受講し、新役職につくことができれば以下のような処遇が期待できるようです。
具体的な手当の金額は下記の通りとなります。
- 職務分野別リーダー:月額5000円以上
- 専門リーダー・副主任保育士:月額最大4万円
園に分配される処遇改善費から保育士さんに手当が支払われますが、支給対象となる保育士さんは園の職員数によって決められます。
どのように支給対象となる保育士さんが決まるのか、園の職員が全員で22人の場合を例にして考えてみましょう。
職務分野別リーダーの場合
職務分野別リーダーについては、標準規模の園では3人が対象になるようですが、計算方法としては園全体の職員から園長・主任保育士を除く1/5が支給対象となります。
よって、園から選抜された4名が職務分野別リーダーの処遇改善費5000円以上/月の支給対象者になるでしょう。
また、副主任保育士などの役職に就ける保育士さんの人数が少ない園では、その余剰予算を職務分野別リーダーなどの給料に分配することも認められています。
専門リーダー、副主任保育士の場合
専門リーダーと副主任保育士については、園全体の職員から園長・主任保育士を引いた人数の1/3が支給対象となります。
ここで気をつけたいのが、支給対象者全員に月額4万円の全額が支給されるのではなく、決まった人数にしか全額支給されないということです。
具体的には2020年に全額支給の対象となる人数の計算方法が改正されたことが関係しています。
内閣府「【資料2-4】処遇改善等加算の運用について」の資料をもとに、改正前・改正後の支給範囲の変化をみていきましょう。
満額支給者の人数が、「対象者の1/2」から「1人以上」に変更されました。
満額対象者の設定については、園の職員の状況によって柔軟な対応ができるようになっています。
残りの支給額の配分については、主任保育士や職務分野別リーダーの保育士さんに対して、月額5000円~4万円未満の範囲で支給可能となります。
このように、全額支給となる対象者やそれ以外の役職者の手当の給料額が決定されるようです。
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保育士等キャリアアップ研修を受講し処遇改善を受けるには
保育士のキャリアアップ研修は、どのような手順で受講できるのでしょうか。
順番を紹介します。
1.実施機関に申し込む
キャリアアップ研修は、各都道府県で指定されている研修実施機関に申し込む必要があります。
日程や定員数が決まっているため、いつまでに申し込めばよいのかを確認し、ゆとりを持って準備を進めていきましょう。
2.受講者は保育園が決定する
受講者は保育園が決定します。
申し込む前に、必ず保育園に確認をする必要があるでしょう。
3.受講後レポートを提出する
レポートに関しては、研修で学んだことや理解したこと、日頃の保育内容との関連づけなどを記載します。
研修を、今後の保育や現場にどう活かすかが大切でしょう。
4.修了証をもらう
研修後、申請をして修了証が発行されます。いつまでに届くかはそれぞれで異なるようです。
修了証については、研修が実施された会場の所在地以外でも有効で、修了証は無期限で全国共通となります。転職を視野に入れている保育士さんも大きな恩恵を受けられそうです。
2023年度から適用されている研修修了要件とは
さて、先述した通り、キャリアアップには研修の受講が要件に含まれています。
これまで、いつまでに受講を終了しなければならないなどの時期は問われていなかったものの、研修の重要性と円滑な要件適用を考慮して、2023年度より研修修了要件を段階的に適用することとなりました。
ただ、キャリアアップ研修を受講する最初の年に、規定の全ての研修を受講しなければならない、ということではないようです。
くわしく見ていきましょう。
出典:「施設型給付費等に係る処遇改善等加算Ⅱに係る研修修了要件について(通知)」改正概要/東京都福祉保健局
表にあるように、副主任保育士・中核リーダーなどは2023年度に1分野15時間以上の受講が必要となり、以降は2分野30時間以上などと数年かけて規定の研修量を受講します。
職務分野別リーダー・若手リーダーについては2024年度以降に適用とされました。
職務内容に応じた専門性の向上を図るため、現場での研修機会を充実させることが重要とされています。
キャリアアップ研修は、eラーニングでも受講できます。オンライン研修が導入されたことで、自宅や保育園で受講することも可能になっています。
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保育士がキャリアアップ研修を受けるメリット
ここまで保育士のキャリアアップ研修の概要と処遇改善について解説してきましたが、ほかにはどのようなメリットがあるでしょうか。
役職がつきキャリアが明確化する
保育の現場では、園長や主任保育士の下で、中堅までの職員がさまざまな課題への対応や若手の指導などを行っています。
キャリアアップ研修は、そのような職務内容に応じた専門性の向上を図るための重要な研修機会とされているようです。
給料が上がる
キャリアアップ研修を受講することによって職務分野別リーダー・専門リーダー・副主任保育士などの役職につくことができれば、処遇改善が行なわれます。つまり、給料が上がることが期待できるでしょう。
以下の記事では、保育士の年収について詳しく解説していますので、気になる方はチェックしてみてくださいね。
専門知識を深められる
幼児保育や食育、保護者支援などの分野を受講すれば、実践的な知識を日々の保育に活かせるでしょう。
現在の職場に悩んでいたり、乳児院や児童発達支援施設などのへの転職を考えていたりする場合でも、乳児保育や障害児保育の分野など転職先で活かせる知識を得られそうですね。
修了証は期限なしで全国共通で使える
自治体ごとに全国で導入されている保育士のキャリアアップ研修ですが、一度取得した修了資格は全国共通となります。
受講したところとは別の都道府県に引っ越したり、復職・転職したりする場合にも、修了証はそのまま活用できるので安心ですね。
受講費用の負担が少ない
キャリアアップ研修は受講料が無料で、自己負担はテキスト代のみと料金負担が少ないのも魅力です。
都道府県ごとで開催されるため、わざわざ遠方まで出向かなくてよいのもメリットといえるでしょう。
修了証は転職時に活用できる
転職を考えている保育士さんにとっても、キャリアアップ研修は有用であるといえるでしょう。
役職をもらい、キャリアアップしていくことも仕事へのモチベーションにつながりますね。
手当の金額は保育園で決定するため、転職する際は転職エージェントなどを通してしっかり確認することが大切でしょう。
保育士のキャリアアップ研修を活用して、待遇改善に役立てよう
今回紹介した保育士等キャリアアップ研修。
キャリアアップ研修は、専門性を高める一方で長い時間を要するため、保育園全体で意欲的に取り組む必要がある でしょう。
現在、「役職に挑戦したいけど今の園だと難しい…」「キャリアアップして給料を上げたい」という保育士さんはいませんか?そのような場合はぜひ一度、保育士バンク!にご相談ください。
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出典:保育士等キャリアアップ研修ガイドラインの概要/厚生労働省
出典:調査研究協力者会議における議論の最終取りまとめ(概要) /厚生労働省
出典:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と 処遇改善について/厚生労働省
出典:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージ/宮城労働局厚生労働省
出典:「施設型給付費等に係る処遇改善等加算Ⅱ に係る研修修了要件について(通知)」 改正概要/東京都福祉保健局