幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」とは、どのようなものかご存知でしょうか。これは、2017年に日本の幼児教育・保育の基準となる「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園・保育要領」の改正に伴いつくられたものです。「10の姿」について、具体的な内容を事例も交えて解説します。

MIAStudio/shutterstock.com
■目次
幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿とは
「10の姿」とは、幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領が2017年に改定に伴いつくられたもので、2018年4月より施行されました。
10の姿は、卒園(=小学校入学時)までに育まれる子どもの姿を、10個の具体的な視点から捉えて、明確化したもので、以下の項目を設定しています。
<10の姿の視点>
①健康な心と体
②自立心
③協同性
④道徳性・規範意識の芽生え
⑤社会生活と関わり
⑥思考力の芽生え
⑦自然との関わり・生命尊重
⑧量・図形、文字等への関心・感覚
⑨言葉による伝え合い
⑩豊かな感性と表現
保育園には「保育所保育指針」、幼稚園には「学校教育法」という指標がありましたが、幼保連携を目的として策定された「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」をしっかりと捉えて、保育活動に生かすことが大切です。
また、「10の姿」を活用しながら、資質・能力といった子どもの成長を促すことで、子どもの具体的な姿を小学校へ伝えやすくなったり、今後の学校生活へスムーズに移行したりすることにもつながります。
幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」には、どのような視点と具体的な事例があるのでしょうか。文部科学省「幼児教育部会における審議の取りまとめ」の資料を参考にしながら、項目ごとに詳しく解説します。
10の姿の視点:①健康な心と体
10の姿の1つ目の視点は、「健康な心と体」です。

保育士さんは、子どもたちの健康な心と体を育むために、健康的な生活のために必要なことを、子どもたちといっしょに考えてみたり、実際にやってみたりするなど、本人ができたという実感をもてるようにすることが大切です。
10の姿の視点:②自立心
10の姿の2つ目の視点は、「自立心」です。

乳児期から幼児期の成長過程の中で、身の回りのことが徐々に自分でできるようになることでしょう。
自立心を育むために保育士さんは、園生活を子どもたちが自分で考え、行動できるように、必要なことをわかりやすく教えるとよいでしょう。ただし、子どもは一人ひとり発達のスピードが異なるため、個別にフォローすることも重要です。
10の姿の視点:③協同性
10の姿の視点の3つ目は、「協同性」です。

保育士さんは、子どもの考えや思いを受け止め、共通の目的を達成するために必要なことや、困難な状況を想定しつつ適度にサポートすることが大切になるでしょう。
10の姿の視点:④道徳性・規範意識の芽生
10の姿の視点の4つ目は、「道徳性・規範意識の芽生え」です。

保育士さんは、友だちに自分の気持ちを受け止めてもらったり、自分の行動を振り返って謝ったり、気持ちを切り替えたりする子どもを認め、励ますとよいでしょう。
さまざま出来事を経験することで、子どもたちは遊びのルールにつくり替えたり、年下の子どもにわかりやすく説明したりと、仲間としていっしょに楽しめるようになったりするとよいですね。
10の姿の視点:⑤社会生活と関わり
10の姿の視点の5つ目は、「社会生活との関わり」です。

保育士さんは子どもが状況に応じて、考えて行動しようとする姿などを、クラスの話題にして共有するとよいでしょう。
そのような体験が園内の幼児クラスや未就園児、保護者などとの関係につながることがあるため、子どもたちの行動にしっかり目を配ることが大切です。
10の姿の視点:⑥思考力の芽生え
10の姿の視点の6つ目は、「思考力の芽生え」です。

保育士さんは、子どもの好奇心や探究心を引き出すような状況をつくるとともに、子どもたちそれぞれの考え方を受け止め、それをわかりやすく伝えながら、別の考えを引き出すことが求められるでしょう。
10の姿の視点:⑦自然との関わり・生命尊重

Natee K Jindakum/shutterstock.com
10の姿の視点の7つ目は、「自然との関わり・生命尊重」です。

保育士さんは子どもが集まったときに、自然や生命に関わることを話題として取り上げたり、継続的に観察を行うなどして、子どもたちといっしょに調べるなど、子どもたちの好奇心や関心がさらに高まるかもしれません。
10の姿の視点:⑧数量・図形、文字等への関心・感覚
10の姿の視点の8つ目は、「数量・図形、文字等への関心・感覚」です。

保育士さんは、子ども一人ひとりの数量や図形、標識や文字などの出会いや関心の度合を把握し、その知識の深まりに応じて親しめるように工夫しながら、環境を整えられるように援助するとよいでしょう。
10の姿の視点:⑨言葉による伝え合い
10の姿の視点の9つ目は、「言葉による伝え合い」です。

保育士さんによる、乳児期の子どもへ向けた語りかけや歌いかけは言葉の理解や発語の意欲を育むうえで大切なことでしょう。
特に5歳児後半では、伝えたい相手や状況に応じて、言葉の使い方や表現の仕方を変えるようになるかもしれません。
そのため保育士さんは、状況に合わせて子どもたちの思いをが伝わるようにサポートするとともに、さまざまな言葉に出会う機会をつくることが大切といえるでしょう。
10の姿の視点:⑩豊かな感性と表現
10の姿の視点の10つ目は、「豊かな感性と表現」です。

保育士さんは子ども一人ひとりの表現する喜びを大切にし、その子らしい表現方法を育んでいけるように、アイデアが生み出しやすい環境を整えるとよいでしょう。
出典:「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえた教育課程の編成や指導計画在り方/文部科学省
出典:「幼児期の終わりまでに育ってほしい幼児の具体的な姿(参考例)」/文部科学省
幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」で意識すべきポイント

MIA Studio/shutterstock.com
幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」を保育活動に取り入れる際には、どのようなことに意識すればよいのかを詳しく見ていきましょう。
保育の「5領域」の指標を大切にする
子どもたちと関わる中で、「10の姿」を生かすためには、保育園や幼稚園における、保育・教育目標の1つである「5領域」の指標を大切にしましょう。
5つの内訳は、健康・人間関係・環境・言葉・表現となっており、乳児期から幼児期を保育施設で過ごす中で、子どもたちが園生活を通じてさまざまな体験を積み重ねることで、他者と関わりながら5つの領域に向かうことをねらいとしています。
10の姿は、5領域にある資質や能力といった育みたい子どもの姿を、より「具体的」に提示したものです。
そのため、保育園や幼稚園では5歳児になってから急に10の姿へ移行するのではなく、3歳児、4歳児で5領域を取り入れているときから、10の姿を意識して指導することで、幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿により近づくことでしょう。
子どもの一人ひとりの個性を大切にする
「10の姿」が幼児の成長のゴールのように考えてしまいがちですが、あくまで5歳児の後半までの成長の目安と捉えましょう。
子どもには一人ひとり異なる個性があり、成長のペースはさまざまです。遊びの中で、表現は苦手だけど、本を読むことが大好きな子どももいます。
保育士さんは、そういった子どもの個性を尊重し、子どもの得意分野を伸ばして自信に繋がるような言葉がけを大切にしましょう。
小学校との連携を意識する
幼児期の終わり、つまり卒園は、保育者にとってひとつの区切りではあるものの、子どもたちにとっては人生の一過程です。
小学校に入学してからも、連続して育っていくという意識を忘れないようにしましょう。10の姿を基準に話をすることで、小学校の先生に申し送りをする時に、子どもの姿を共有しやすくなることにつながるでしょう。
幼児期が子どもの10の姿通りに育つことが成長の「ゴール」ではない
今回は、幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」について紹介しました。
「10の姿」は、子どもの成長のゴールではなく、日々の生活の中で自然と育まれていき、身につけていく目安となるものです。そのため、保育者が個別に伝えるするのではなく、子どもたちに必要な体験が得られるように、環境を整えていくことが大切になります。
5領域をより具体的に提示した保育・教育目標の1つと考えて、保育園や幼稚園に通う子どもたちの指導に役立ててましょう。
「10の姿」を幼児教育の基準とすることで、小学校の先生に申し送りをする際も、子どもの姿を共有しやすくなりそうですね。