待機児童問題が懸念される中、保育士の人材不足が深刻化している状況でしょう。人員確保が上手くいかないと悩んでいる場合、原因や解決策をきちんと把握することが大切かもしれません。このコラムでは、なぜ保育士の人材不足が続いているのか、保育業界の有効倍率や勤務状況、勤続年数などの現状を解説しながらお伝えします。
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保育士の人材不足の現状
近年、保育士の人材不足が大きな問題となっています。
採用担当者の方も「応募がなかなか集まらない」、「人員確保に向けて採用活動が忙しい」と悩む方もいるでしょう。
政府においても、待機児童問題の解決に向けて、保育士確保や処遇改善に取り組んでいますが、依然として問題が解消されていない状況が続いているようです。
なぜ保育業界で人材不足が起きているのでしょうか。
まずは、保育士の求人有効倍率や有資格者の勤務状況と勤続年数から、人材不足の現状について見ていきましょう。
保育士の求人有効倍率
厚生労働省が発表した保育士の有効求人倍率の推移は以下の通りです。
有効倍率とは、一人あたりの求職者に対する求人数を指します。
2020年7月時点の保育士の有効倍率は2.29倍となっており、全職種平均の1.05倍に対して2倍近い数値となっています。
2018年よりも有効倍率は0.39%下落しているものの、依然として高い水準で推移しているため、人材確保競争が高まり、保育士の採用が難しい状態であることがわかるでしょう。
保育士有資格者の勤務状況と勤続年数
厚生労働省の資料によると、保育士有資格者の勤務状況と勤続年数については、以下の内容となります。
抜粋:保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けてp4/厚生労働省
2015年の調査により、保育士有資格者の48.3%が保育所に就職していないことがわかりました。
また、右のグラフは、資格をもちながらも保育士として勤務を希望しない求職者勤務年数を指します。
約半数の方が勤続年数5年未満という結果となり、早期退職者が多いようです。
2つのデータを読み解くと、保育士資格をもちながらも保育園で働く方が少ないことや働いたとしても半数の方が早期離職してしまう状況であることが明らかとなりました。
そのため、人手不足が発生し、採用活動においても支障をきたしていることが考えられるでしょう。
このような状況を改善するためにも、なぜ人材不足を招くのか、解決策に目を向けることが大切かもしれません。
出典:保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けてp4/厚生労働省
保育士の人材不足を招く3つの原因
保育士の人材が不足している原因として、保育士有資格者の方が「就業先に保育園を希望しない」、「保育園を早期に離職してしまう」ことが要因のようです。
人材不足を招く原因についてみていきましょう。
原因①労働条件や待遇への不満
厚生労働省が実施した調査によると、保育士としての就業を希望しない理由については、「賃金が希望と合わない(47.5%)」、「休暇が少ない・休暇がとりにくい(37%)」と労働条件や待遇に対する不満であることがわかりました。
賃金に関しては2019年度の保育士の平均年収は363万円前後に比べて、常勤で働く女性の平均年収は386万円となります。(国税庁のデータ参照)
一般的な職種と比べて年収が低いことから、給与が安いと感じ、待遇に不満を感じて離職するケースが多いのかもしれません。
また、保育所は人員不足や行事の企画・運営などの理由で、なかなか休暇が取りづらいという状況にあるようです。
休暇が取りづらい状況が続くと離職してしまう方も増え、人材不足を招く原因となることが考えられます。
原因②職場の雰囲気が悪い
厚生労働省の「過去に保育士として就業した者が退職した理由」を見てみると、「職場の人間関係」により、3割の方が離職しています。
実際、保育士の仕事は日常的に職員間で協力することが多い業務です。
その中で、連絡事項の共有や行事計画などさまざまな場面で連携していると、互いの保育観に違いが見られたり、連絡漏れやミスなどが起きた場合に関係が悪化したりするケースがあるのかもしれません。
また、少人数の保育施設では職員数が限られていることから、閉鎖的な環境の中で人間関係が崩れてしまうと、トラブルに発展する可能性も考えられます。
職場の雰囲気が悪いことで離職した場合に、もう一度保育士として働いても、また同じ経験を繰り返すのではないかという思いから、復職に前向きになれない場合があるでしょう。
こうした理由から、保育士として働くことを希望せずに、違う職種に就く方が多く、結果的に人材不足につながってしまうのかもしれません。
原因③仕事量が多い
保育士さんは、仕事量が多いことから、業務がこなせずに辞めてしまう方もいるかもしれません。
実際の保育士の仕事は以下のようなものが挙げられます。
- 子どもの生活習慣(食べる、寝る、排泄など)の援助をする
- 子どもの運動や製作遊びを通して健全な成長を手助けする
- 保護者からの相談やトラブルに対応する
- 園だより、クラスだよりを作成する
- 行事の企画・運営をする
- 施設内の衛生管理、安全点検を行う
- 指導案や保育士日誌などを作成する
上記以外にも、職員のシフト作成や保護者へのお知らせ配信などを行っている保育士さんもいるようです。
経験年数を重ねて業務に慣れたとしても、新人保育士さんの指導や主任業務などで仕事量が多くなることもあるようです。
また、妊娠・出産などライフステージが変わると「業務量が多いため、仕事と育児を両立できない」という理由から、資格を保有していても復職を希望しない方もいるかもしれません。
このような潜在保育士さんの増加が、人材不足を招く原因となるでしょう。
出典:保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けて/厚生労働省
出典:民間給与実態統計調査結果/国税省
保育士の人材不足を防ぐ3つの解決策
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人材不足を防ぐためには、各園でどのような解決策が必要なのか具体的に見ていきましょう。
対策①労働環境・待遇改善に取り組む
人材不足の防止に向けて、労働環境や待遇改善に取り組むことが大切でしょう。
まずは職場の労働環境について、以下の項目を参考に把握して、データ化してみましょう。
- 勤務時間
- 休憩時間の有無
- 残業時間(職員で時間数に偏りがないかなど)
- 持ち帰り残業の有無
- 事務作業の時間
- 賃金の上昇率
- 仕事の役割(壁面製作・行事企画、運営など)
- 新人教育の役割(指導・指導案のチェックなど)
- 園の衛生管理(掃除分担など)
特に仕事の役割については、きちんと分担されているのか、保育士さん一人に仕事内容の比重が偏っていないかと確認をすることが大切です。
現状を把握して、「ICTシステムを導入して事務作業を簡略化する」、「壁面製作は2カ月毎から4カ月に一度に変更する」などに取り組み、さまざまな観点から労働環境の改善をしていきましょう。
待遇改善については、国からの補助金で補填するだけでなく、園独自のキャリアアップ制度を設け、役職手当の増額を検討するとよいかもしれません。
対策②働きやすい職場づくりに取り組む
人材不足を防ぐためには、園の職員が「この職場でずっと働きたい!」、「保育士としてのキャリアをこの園で積みたい」という気持ちになるように、働きやすい職場作りに目を向けることは大切でしょう。
厚生労働省においても、働きやすい職場づくりのための手引き書を作成しており、保育士の職場環境の改善に向けて力を入れています。
例えば、短時間勤務形態を導入した保育園の実例を記載し、妊娠・出産・子育てなど環境が変わっても保育士として無理なく働くことができるような仕組みを紹介しています。
短時間勤務形態については、保育士の資格を持ちながらも職場で働いていない、いわゆる潜在保育士さんの採用に向けても効果的であるようです。
その他にも、誕生日休暇制度や時間単位の有給休暇制度などを取り入れて、保育士さんが休日をとりやすいようにさまざまな取り組みを解説しています。
このような資料を参考に、人材不足の解消に向けて働きやすい職場づくりについて考えてみましょう。
対策③就職者・転職者に向けて園の魅力をPRする
人材不足を防ぐためには、人員を補充することは重要でしょう。
しかし、なかなか応募が集まらず、採用活動が上手くいかないこともあるかもしれません。
就職者や転職者に以下のようなPR方法を考え、園の魅力を伝えていきましょう。
- 募集方法を増やす(ハローワーク、求人サイト、新聞広告など)
- 人材紹介会社や派遣会社を活用する
- 転職フェアや合同説明会に参加する
- 職場体験を実施する
- 自園のHPを作り、保育活動への取り組みを伝える
近年は、保育士の人材紹介や派遣を活用する施設も増加しています。
地域の就職者や転職者の動向などを把握している場合もあるため、一度問い合わせてみるとよいかもしれません。
また、園の近隣にお住いの保育士さんは、各園のホームページを見て勤務先を決定する場合もあるようです。子どもの様子や保育方針をわかりやすく説明し、多くの求職者が「この園で働いてみたい!」という気持ちになるように、工夫できるとよいですね。
保育士の人材不足問題の解消に向けて、採用活動を成功させよう
今回は、保育士の人材不足の現状について、深刻化しているのはなぜなのか、解消に向けてどんな取り組みが必要なのかを紹介しました。
保育士の人員を確保するためには、職員の勤務状況の把握や職場環境の改善は大切なことでしょう。
保育士は命を預かるという責任量と保育活動や企画運営、事務作業など仕事量が多い職種といわれています。
現在の職員が長期的に保育士としてやりがいをもって働けるよう、仕事の役割分担の見直しやICTシステムの導入などに目を向けてみるとよいかもしれません。
また、採用活動においても園の魅力を就職者や転職者に伝えられるように、募集方法を増やしたり、人材会社を活用したりして人員の補充に向けて取り組んでいきましょう。