2017年度に保育士のキャリアアップ研修制度が確立され、職務分野別リーダー・副主任保育士・専門リーダーなど3つの役職が誕生しました。人材の定着や職員の処遇改善、スキルアップを図るためにも、制度の活用が必要かもしれません。このコラムでは、キャリアアップ研修の内容や導入するメリットなどを紹介します。
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保育士のキャリアアップ研修制度とは
人手不足が問題視される中、職員のモチベーションアップや人材の定着化に向けてスキルアップの方法について考える採用担当者の方もいるでしょう。
そのひとつとして、国が設定した「保育士のキャリアアップ研修制度」の導入が挙げられます。
この制度は保育士の知識・スキルの向上と処遇改善を目的として、2017年に設立されたものです。
以下の3つの役職が設置され、研修を受けることで給与の増額が期待できるしくみになっています。
- 職務分野別リーダー:月額5千円の昇給
- 副主任保育士:月額最大4万円の昇給
- 専門リーダー:月額最大4万円の昇給
職員の保育に対する意識を高めるためにも、キャリアアップ制度の詳細を把握し、園内の導入を検討してみるとよいかもしれません。
詳しい内容について見ていきましょう。
出典:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について/厚生労働省
保育士のキャリアアップ研修の内容
役職別の必要条件
キャリアアップ研修を修了するためには、8つの研修分野から科目を選び、受講する必要があります。
役職別の必要条件は以下のように決まっており、1分野15時間以上の受講が必須となります。
役職別に経験年数、受講科目数などに違いがあります。
研修実施機関によって受講できる人数が決まっており、申し込みが開始されてすぐに定員に達するケースもあるようです。
受講を職員に提案する場合は、研修実施機関の所在や実施期間、申し込み時期なども把握しておくと伝えやすいでしょう。
具体的な分野別の研修内容
先述の通り、キャリアアップ研修制度の受講分野は以下の8つに分かれています。
- 乳児保育
- 幼児教育
- 障害児保育
- 食育・アレルギー対応
- 保健衛生・安全対策
- 保護者支援・子育て支援
- マネジメント
- 保育実践
保育に必要な分野の講座が用意されており、研修通して職員のスキルアップが期待できるでしょう。
厚生労働省の<ahref=”https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/tuuti.pdf”target=””_blank””rel=”noopenernoreferrer”>「保育士等キャリアアップ研修の実施について」の資料をもとに、各講座の詳しい内容を紹介します。
乳児保育
乳児保育の役割や機能、遊びや環境設定、生活習慣の援助や関りなど現場の保育に役立つ内容となっています。
また、保育を行ううえで重要な保育所保育指針について改めて学習し、観察を通しての記録や評価方法、指導案作成なども受講できるため、乳児保育の分野の知識を深めることができるでしょう。
幼児教育
幼児教育の役割や機能、小学校への接続の重要性などを深く学ぶことができる科目です。
幼児期のふさわしい生活、遊びを通しての総合指導などさまざまな事柄を幅広く受講することができるため、職員が子どもと関わるうえでスキルアップに役立つでしょう。
障害児保育
障害のある子どもの理解や医療ケア児への対応など、障害児保育に関する適切な援助について学べるようです。
また、家庭や地域の専門機関との連携についても学習するため、現場に活かせることもあるでしょう。
食育・アレルギー対応
食育に関する理解や、アレルギー対応など現場で役立つ内容となっています。職員が子どもたちに向けて食の大切さや重要性を伝えるうえでも勉強となることが多いかもしれません。
保育所における食事の提供やアレルギー対応のガイドラインなども含めて受講するため、役立つこともあるでしょう。
保健衛生・安全対策
保健衛生や安全対策などを学び、保育所における感染症のガイドラインなどについて詳しく受講します。
また、救急処置や救急蘇生法の習得、災害への備えと危機管理なども学習するため、子どもたちの命を預かるうえで重要な内容でしょう。
保護者支援・子育て支援
保護者への関わり方や子育て支援など幅広く学ぶことができる内容です。
虐待の予防、子どもの貧困への対応なども受講するため、職員が社会問題に対して知識を深めるきっかけとなるでしょう。
マネジメント
組織のマネジメント力や人材の育成方法など、適切なリーダーシップをとるための指導について学ぶ内容となっています。
業務の効率化に向けたICTシステムの活用や職員の精神的ケアを目的としたメンタルヘルス対策などを受講することから、保育士の働きやすい環境を作り上げる際に役立つでしょう。
保育実践
身体を使った遊びや言葉・音楽を使った遊びなどさまざまな活動の保育展開の実践方法を学べるでしょう。
子どもの感性を育むための環境構成も学ぶことができ、職員が遊びを指導する際も活用することができるかもしれません。
保育士のキャリアアップ研修制度を導入するメリット
研修内容が分かったところで、キャリアアップ研修制度を自園に導入するメリットについて紹介します。
職員のモチベーションを高めることができる
保育士という職種は一般的に園長、副園長、主任と役職が少なく、「キャリアアップするには何が必要なのか」、「昇給に向けてどのように成長すればよいのか」と不安を抱えたまま、仕事をこなしている方もいるかもしれません。
キャリアアップ研修制度では、職務分野別リーダー、副主任保育士、専門リーダーと3つの役職ができ、ポジションの段階や昇給について明確化されました。
制度を導入することで現場の職員さんははっきりした目標をもって働くことができ、モチベーションの向上につながりそうです。
保育の質の向上につながる
研修では保育に関わる乳児や幼児、食育など8つの専門分野の中からさまざまな教養や実践方法を学ぶことができます。
保育士は子どもの命を預かる責任の多い仕事のため、安全対策や事故防止について学習したいと考える方も多いかもしれません。
キャリアアップ研修制度を導入することは、職員の労働環境の改善だけでなく、保育の質の向上をうえでも役立つでしょう。
国から処遇改善手当が支給される
保育士に給与の増額を行いたいと考えていても園の経営が厳しく、手当を与えられない場合もあるかもしれません。
キャリアアップ研修制度を導入すると、研修を修了した場合に国から園に処遇改善手当が支給されます。
研修を修了した職員の全体の人数によって分配の金額は異なりますが、月額5000円~最大4万円の手当てを支給することが可能となるようです。
そのため、制度を活用して職員の待遇の改善を図ることに役立ち、仕事への満足度を高めることにつながるかもしれません。
出典:【資料2-4】処遇改善等加算の運用についてp4/厚生労働省
保育士のキャリアアップ研修制度を導入し、人材の定着に役立てよう
キャリアアップ研修制度を導入すると、処遇改善や役職の明確化、職場環境の整備に役立つでしょう。
また、研修に参加することで専門知識を深め、現場の保育の質を高めることができるかもしれません。
人材の定着を目指し、働きやすい環境を作りあげるためにもキャリアアップ研修制度への理解を深め、活用していきましょう。