保育士資格を持ちながらも保育施設に勤務していない「潜在保育士」。社会問題である待機児童や保育士不足の現状を打開するための重要な存在として近年注目が集まっています。今回は、潜在保育士の実態や復職しない理由、また復帰に関する現状などについて、厚生労働省の資料をもとに解説します。
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潜在保育士とは?
潜在保育士とは、保育士の資格を持っているものの、現在保育の仕事に就いていない人のことを指します。
厚生労働省の調査によると、潜在保育士の人数は全国に約95万人となっています。
そのなかでも、潜在保育士のパターンは以下の2つががいると考えられるでしょう。
(1)保育士資格を持っているが、保育施設で働いたことがない人(約17%)
(2)保育士資格を持っており、過去に保育施設で働いていた人(約83%)
潜在保育士のなかには、一度は保育施設で働いたものの辞めてしまった人が8割いることがわかります。
では、なぜ保育施設で働いていた人が退職してしまうのでしょうか。
退職を決めた保育士の3つの理由
厚生労働省「保育士の現状と主な取組」によると、保育士の主な退職理由は以下のようになっています。
退職理由として多い、「職場の人間関係」「給料の安さ」「仕事量の多さ」という理由の背景をそれぞれ見ていきましょう。
職場の人間関係:33.5%
最も多い退職理由は、職場の人間関係によるものです。
保育の現場では、異なる年代の職員同士のチームワークや協調性を求められる機会が多いでしょう。
意見のすれ違いなどから人間関係がうまくいかず、仕事に支障が出てしまうこともあるのかもしれません。
また、職員数が少ない園の場合、風通しが悪くなってしまうことも考えられます。
このように、一度人間関係の問題に直面した場合、再び保育士として働くのにためらいを感じてしまう方もいるかもしれません。
給料の安さ:29.2%
保育士の平均賃金の低さ
保育士の賃金の低さから、退職を決めた方も多いようです。
保育士と他の職種の給料を比べてみると、全職種の平均年収が500万7000円であるのに対し、保育士の平均年収は363万5000円となっています。
保育士さんが不満を感じる要因は、連絡帳や行事の準備など仕事量の多さと、子どもの命を預かる責任の大きさに、給料が「見合わない」ということが挙げられるでしょう。
公立と私立の離職率から見る退職理由
公立保育園の離職率が5.9%であるのに対し、私立保育園の離職率は10.7%となっています。
これには、公立と私立で給料に大きな差があるからだと考えられます。
具体的な額は以下の通りです。
公立保育士は経験年数やキャリアによって給与額が大きく増加するため、昇給が少ない私立保育士と比べると大きな差が発生しているのかもしれません。
そうなると私立保育士の場合、公立園と比較して勤続年数やキャリアが給料に反映されづらいことが離職率の増加につながっていると考えられそうです。
仕事量の多さ:27.7%
保育士の仕事は子どもの保育以外に、製作物を作ったり、指導案を作成したり、保護者の対応をしたりと、多種多様の仕事があります。
厚生労働省の調査では、保育士の業務における課題として、以下のような負担項目が挙げられており、これらの改善が求められています。
- 人手不足
- 特別な配慮が必要な子のケア
- 行事の準備
- 手書きでの書類作成
一方、保護者の送迎時間の打刻を行なうICT機器を導入したものの、打刻忘れやミスが発生してしまい、手作業での修正が負担となっているといった報告も寄せられており、業務効率化の難しさが伺えます。
出典:令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報値>【修正版】p7/内閣府
出典:令和元年度 保育士の業務の負担軽減に関する調査研究事業報告書p39/厚生労働省
潜在保育士が復帰しない理由
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保育士さんが退職してしまう理由はわかったものの、潜在保育士さんが復帰しないのにはどのような理由があるのでしょうか。
労働条件が一致しない
保育士として働きたいという希望はあるものの、ライフスタイルに合った労働条件で雇ってもらえる求人がなかなか見つからないという問題があるようです。
通勤時間
通勤に時間がかかると、そのぶん勤務外で時間を取られてしまいます。
子育てをしている家庭の場合、保育所などの送迎を考慮すると、遠くの園に勤務することは難しいという方が多いのかもしれません。
勤務日数、勤務時間
潜在保育士さんには、時間単位勤務の希望者も多いようです。
以下のグラフは厚生労働省による、保育士経験のある潜在保育士の時間単位勤務での復職以降の調査結果です。
実際、厚生労働省の意向調査では7割近くの人数がパートタイムなど時間帯勤務で復職を希望するという回答をしています。
なかでも、30代・40代といった子育て世代では、よりその傾向が強く、そのような潜在保育士さんが働きやすい環境の整備が必要であることがわかるでしょう。
体力の不安
一日中子どもと過ごす保育士の仕事は、安全管理のため絶えず子どもを見守ったり、活動の準備や戸外活動、保育の合間に書類仕事を進めたりと、体力的にも気力的にもハードといえるでしょう。
そのため、一度保育の仕事を離れると、またそのようなハードワークについていけるのかと不安に感じる人も多いようです。
家庭との両立
保育士の仕事には早朝保育や延長保育などのシフトがあり、育児や介護など家庭との両立が難しいという方も多いそうです。
また、担任を持つとクラスの書類や製作物の仕事が増え、持ち帰り残業をせざるを得ないという園もあり、家庭を持つ方にとっては復職しにくい要素の一つなのかもしれません。
以上のように潜在保育士さんが復帰をしないのにはさまざまな要因があり、なかなか保育現場への再就職に踏み切れずにいるようです。
一方で、次のような数字も出ています。
以下のグラフは、厚生労働省が調査したハローワークで求職中の潜在保育士さんの就職希望状況です。
抜粋:保育分野における人材不足の原因・理由②p4/厚生労働省
グラフの通り、約半数が保育以外の仕事を希望しているものの「保育士への就業を希望しない理由が改善されれば、復職したい」という人が6割を占めています。
すなわち、保育士の仕事に魅力を感じているが、さまざまな条件が合わないため保育現場から遠ざかっているという方が多いことがわかるでしょう。
出典:保育分野における人材不足の原因・理由②p4/厚生労働省
潜在保育士の復帰に向けた厚生労働省や自治体の取り組み
就業を希望しない理由が改善されれば、保育士として再就職したいと考えている潜在保育士さんが多いなかで、国や自治体ではどんな取り組みを行っているのでしょうか。
復職支援
厚生労働省では保育士確保プランを打ち出し、働く職場の環境改善や、再就職支援などを実施しています。
再就職支援の一例では、「保育士マッチング強化プロジェクト」として全国のハローワークと連携して、ハローワークにおける求人を増やしたり、自治体で合同就職説明会や復帰支援セミナーを開催したりしています。
職場環境の改善としては、管理者を対象とした研修の実施や、保育所等と保育士・保育所支援センターとの連携を強化、保育所における雇用管理の好事例集や雇用管理マニュアルを作成して配布するなどの取り組みを行っています。
離職防止対策
現職の保育士が仕事を続けることができるように、保育士確保プランで離職対策も実施しています。
具体的な対策として、新人保育士に向けた就業前のイメージと入職後のギャップをOJTでフォローすることや、保護者対応についての研修の実施、職員の職場定着を図る場合に支給される助成金の活用促進などがあります。
こうした対策を実施することで、同じ職場への定着はもちろん、保育業界内での転職がしやすくなるような環境にしようと考えているようです。
潜在保育士の復帰支援を活用して、現場復帰を目指そう
今回は、潜在保育士とは何か、保育士の退職理由から復帰できない理由、国や自治体の対策について解説しました。
潜在保育士は、待機児童や保育士不足の深刻な現状を打開してくれる切り札として近年注目されています。
しかし、家庭との両立に対する不安や労働条件の不一致といったことから復帰には至らず、保育士さんの人数確保は順調とは言えないでしょう。
そうしたなかで園や自治体では、職場環境の改善や復帰支援セミナー、就職説明会の実施などさまざまな取り組みを行っています。
これらの制度を上手に利用して、保育士への復帰を検討してみてもよいかもしれませんね。
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