保育士の待遇面の向上やスキルアップを目的として設立された「処遇改善等制度」。採用担当の方の中には、制度を活用して、人材の定着に役立てたいと考える方もいるかもしれません。このコラムでは2種類ある「処遇改善制度Ⅰ」、「処遇改善制度Ⅱ」の特徴、加算要件やキャリアアップ研修などの詳しい内容を紹介します。
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保育士の処遇改善に向けた取り組み
深刻な人手不足が懸念される中で、応募が集まらなかったり、面接をしても早期退職してしまったりと雇用の問題を抱える採用担当者の方がいるかもしれません。
保育士さんの離職原因のひとつとして「賃金の安さ」、「仕事量に給料が見合わない」など待遇面に不満を感じて辞めてしまうケースが挙げられます。
このような現状を改善するために国は「処遇改善等加算制度」を設け、保育士さんの給与の昇給やキャリアアップの支援を行い、職場環境の整備を推進しています。
人材の定着に取り組むためにも制度の概要の理解、必要性を把握し、働きやすい職場づくりに活かしていきましょう。
制度には「処遇改善制度Ⅰ」、「処遇改善制度Ⅱ」の2種類があります。
それぞれの特徴について見ていきましょう。
保育士の処遇改善等加算Ⅰの特徴
まずは、保育士の処遇改善制度Ⅰの特徴について紹介します。
目的
2015年度に導入された処遇改善制度Ⅰは、非常勤職員を含む全ての職員を対象に、経験年数に応じた給与の昇給や改善を目的としています。
加算要件
処遇改善制度Ⅰには、全職員の平均経験(勤続)年数に応じて、以下のような加算要件が定められています。
抜粋:平成30年度子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料p10/内閣府
①基礎分
職員1人あたりの平均経験年数に合わせて加算率を2~12%と設定されています。加算額については、適切に昇給などでに充てられるようにする必要があります。
②賃金改善要件分(キャリアパス要件分も加算)
賃金改善計画や実績報告を提出し、基準年度の賃金水準を適用した場合や人件費の改定状況をふまえて賃金改善を行った施設に対して5%、また平均勤続年数11年以上の施設では、6%の加算額が設定されています。
このような賃金改善の加算額は法人内の他の施設への充当も可能ですが、確実に職員の賃金改善に充てる必要があります。
キャリアパス要件も含まれますが、条件が満たされなかった場合は3%、または4%となります。
③キャリアパス要件分
役職、職務内容などに応じて加算されます。
勤務条件・賃金体系の設定すること、職員それぞれの資質の向上に向けた具体的な計画立案、計画に合わせた研修機会の確保や実行、職員への周知などさまざまな要件を満たすことで加算されます。
キャリアパス要件が満たさない場合は、賃金改善要件から2%減額されます。
申請手続き
処遇改善等加算Ⅰを活用するためには、各自治体に必要な書類を提出し、手当の支給を申請する必要があります。
申請書類は、内閣府の「処遇改善等加算Ⅰに係る加算率認定申請書」などの様式に沿って作成していきましょう。
書類の記入に時間がかかる場合もあるため、職員それぞれの賃金体系、対象者の経験年数などを把握し、スムーズに記載できるようにまとめておくとよいかもしれません。
また、各自治体で書類形式を用意している場合もあるため、お住いの地域で確認を行うとよいでしょう。
出典:平成30年度子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料p10/内閣府
保育士の処遇改善制度Ⅱの特徴
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次に、保育士の処遇改善制度Ⅱの特徴について紹介します。
目的
処遇改善等加算Ⅱは、非常勤職員やパートなどを含む全ての保育士が対象となり、役職に応じて給与の昇給、改善を目的としています。
制度の設立に伴い、職務分野別リーダー、専門リーダー、副主任保育士の3つの役職が誕生し、保育士としてキャリアアップしやすい環境が整備されました。
加算要件
内閣府の資料によると、処遇改善等加算Ⅱには、以下のような加算要件を満たした対象者に手当の充当が行われます。※経験年数の「概ね」の表記については、各施設の職員状況に合わせて決定が可能
月額4万円加算要件の対象者
- 副主任保育士等の職位の発令、職務が命じられている
- 経験年数が概ね7年以上ある
- キャリアアップ研修において、4分野以上の研修を修了している
月額5千円加算要件の対象者
- 職務分野別リーダー等の職位の発令、職務を命じられている
- 経験年数が概ね3年以上ある
- キャリアアップ研修において、担当分野の研修を修了している
上記のように加算要件を満たすためには、対象者がキャリアアップ研修を受講する必要があります。
役職ごとにどのような研修が必要なのかを把握し、詳しい要件についても確認するとよいかもしれません。
役職ごとの研修をふまえた必要要件
キャリアアップ研修では、現場の保育に活かすことができる知識・技能の習得できるように乳児保育や食育・アレルギー分野など6種類の受講内容が用意されています。
役職ごとに以下の要件を満たすことで、加算手当の対象となります。
各役職に応じて研修の修了が義務づけられています。職員に研修の参加を促す場合は、事前に実施場所や期間などを調べておくと、スケジュールも立てやすいかもしれません。
また、キャリアアップ研修は処遇改善につながるだけでなく、職員のスキルアップや自園の保育の質の向上にも役立つでしょう。
出典:平成30年度子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料p21/内閣府
出典:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善についてp10/厚生労働省
申請手続き方法
処遇改善制度Ⅱの申請手続きは以下の流れとなります。
①処遇改善の対象者の決定(該当の職員数、役職数によって加算額の配分規定あり)
②対象者への発令・職務命令
③都道府県(政令指定都市・中核市の場合はその市)への申請手続き
申請手続きを行う際は、保育施設の所在地の市町村が申請書まとめて、都道府県に提出することなります。
そのため、手続きに関する内容の確認や相談は、所在地の市町村まで問い合わせするとよいでしょう。
関連記事:【採用担当者コラム】保育士のキャリアアップ研修を導入するメリット。処遇改善や保育の質の向上など/保育士バンク!
保育士の処遇改善等加算制度を活用し、人材の定着を目指そう
処遇改善等加算制度の設立に伴い、保育士の待遇面の向上やキャリアアップに目を向けることは、職員の働きやすい環境作りに役立つでしょう
保育士さん一人ひとりが活き活きと働くことができるように、制度の把握、活用に努めることは大切なことかもしれません。
処遇改善制度を利用し、離職の防止・人材の定着にも取り組んでいきましょう。