人手不足が懸念される中、保育士の退職理由とはどのようなものが挙げられるのでしょうか。子どもが好きという想いを抱きながらも、人間関係や待遇や労働時間に対する不満から辞職を選ぶ方がいるようです。厚生労働省の資料をもとに保育士の退職理由をランキング形式で紹介し、離職を防ぐ対策も含めて紹介します。
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保育士の退職理由を知ろう
「経験年数が少ない保育士が辞めてしまう」、「現場の職員の退職者が多く、人手不足だ」など、なかなか人材が定着しないことに対して、悩む採用担当者の方がいるかもしれません。
職場の人間関係や業務量の多さなどさまざまな理由から、現場を離れてしまうことが考えられます。
採用活動を成功させるためにも、保育士さんがなぜ退職してしまうのかを把握し、人材の定着に向けて取り組んでいきましょう。
保育士の退職理由ランキング
厚生労働省の「保育士の現状と主な取組」をもとに退職理由をランキング形式で紹介します。
1位:人間関係が悪い【33.5%】
調査の結果、「保育士同士が不仲」、「園長や副園長と上手くいかない」など人間関係が悪いことを理由に退職を希望される方が最も多いという結果になっています。
保育士の仕事には、クラス運営や行事企画、進行などはもちろん、園児の様子を伝え合ったり、保護者からの伝言を報告したりと職員同士での協力や連携が必要な業務がたくさんあります。
その中で意見の食い違いやコミュニケーション不足などで風通しが悪くなり、ストレスや悩みを抱えて現場を離れてしまうケースがあるようです。
良好な人間関係の構築は、保育士さんの退職を防ぐための重要な課題のひとつと言えるでしょう。
2位:給与が安い【29.2%】
保育士の給与は、施設形態や経験年数によって違いがあるものの、約3割の方が「給与が安い」という理由から辞めてしまうことがわかりました。
「手取りの給与が月12万~13万円で生活が大変だ」、「ボーナスがなく、貯金ができない」など賃金に不満を抱え、長期的に働くことに対して不安を感じることもあるようです。
また、給与が安いにも関わらず、サービス残業や休日がとれないなど不満を抱えると、仕事へのモチベーションも下がり、他の職種に転職する方もいるでしょう。
国としても保育士の処遇改善に向けて、月6000円~4万5000円の昇給などに取り組んでいますが、園それぞれで保育士の賃金の底上げに取り組むことが必要かもしれません。
3位:仕事量が多い【27.7%】
保育士は子どもを預かるだけ・・・というわけではなく、指導案や保育計画の作成、園児の情報管理、保護者対応などさまざまな業務を行います。
そのため、「保育士がこんなにも仕事が多いとは思わなかった」、「持ち帰り残業が続き、プライベートの時間が確保できない」などを理由に辞めてしま方も少なくありません。
また、人手不足の園では一人ひとりの業務負担も多く、子どもを見守ることへの不安を抱える方もいるでしょう。
各園で職員の業務量の軽減に取り組むことは、保育士の離職を防ぐために重要なものと言えます。
4位:労働時間が長い【24.9%】
「毎日残業でへとへとだ」、「行事の準備が多忙で睡眠時間が足りない」など労働時間が長いことが退職理由のひとつとなっています。
保育活動が忙しく、休憩時間が設けていないという園も多く、延長保育や早朝保育、夜間保育など変則的な勤務が重なり、気力や体力が続かずに辞めてしまう方もいるでしょう。
現場の職員のシフト調整や雇用形態などの見直しを行い、残業の削減や労働時間の短縮に目を向けることが大切です。
5位:妊娠・出産【22.3%】
ランキングの結果、全体の約2割の方が妊娠や出産を理由に退職していることがわかりました。
妊娠や出産後も育児休暇を経て働く方がいる一方で、「子育てと仕事との両立は難しい」などの理由から、現場を離れる保育士さんは多いようです。
また、担任や副担任など責任が重い仕事をこなすことを考えると、保育士さん自身が
体調を崩した場合に替えがきかないのではないかという不安から、離職を選ぶケースも考えられます。
保育士の退職を防ぐ方法
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保育士の退職理由がわかったところで、離職を防ぐための対策方法を紹介します。
職員同士のコミュニケーションを大切にする
厚労省のデータにもあった通り、保育士が現場を離れてしまう理由として、職員同士の人間関係の悪さが挙げられています。
風通しのよい職場を作り上げ、日頃のコミュ二ケーションを大切にするためにはどうしたらよいのか、いくつかまとめました。
相談し合える環境を作る
保育士は子どもとの接し方や保護者への関りなどさまざまな悩みを抱える場合があるでしょう。
気軽に相談できる関係性を築き上げるためにも、主任やリーダーなどに向けてマネジメント研修などを行うとよいかもしれません。
研修では、主任やリーダーから「何か悩みはないかな?大丈夫?」と積極的に声掛けをしたり、「○○ちゃんのお母さんと話こんでいたけど何かあった?」と不安なことはないか、配慮したりすることの重要性を伝えることが大切です。
こういった気遣いを行うことで、職員同士の信頼関係が深まり、退職を防ぐことにもつながるかもしれません。
ランチ会や交流会を開催する
保育士さんがお互いにコミュ二ケーションを取ることができるように、定期的にランチ会や交流会などを開催するとよいかもしれません。
一般的な職種の場合は休憩時間に職員同士でランチを楽しみながら、徐々に気軽に相談し合える関係を築き上げることもあるでしょう。
しかし、保育士さんは昼食時間でも子どもの食事の援助、保育活動が終わった後も指導案や連絡帳の記入などに追われ、会話を楽しむ機会がもてないことも多いようです。
夜の食事会などは、子育て中の職員が参加することが難しい場合もあるため、午前保育後にランチ会などを主催し、積極的に交流の場を設けるとよいかもしれません。
ICTの活用で業務を効率化する
仕事量の多さから辞めてしまう保育士さんもいることから、業務量の軽減に取り組むことは重要です。
その際に、パソコンやタブレットなどを活用したICTシステムの導入を検討するという方法もあります。
園児の情報管理や職員のシフト作成、保護者へのお知らせ配信など保育士の業務を手助けする機能が備わっていることから、業務の効率化が期待できます。
国から導入するための補助金制度も確立しているため、ICTの活用を考えてみましょう。
行事を見直し、縮小する
各保育園では、運動会やクリスマス会などさまざまな行事を開催しているでしょう。
しかし、大規模なイベントにすることで企画や準備に時間がかかり、職員の負担が増えることが考えられます。
そのため、保育士さんの業務負担を軽減するためにも、行事の見直しや縮小に目を向けるとよいかもしれません。
その際、行事を開催するねらいを改めて見直し、「参観日の際にミニ運動会を各クラスで開く」、「生活発表会を録画して保護者に配信する」など、アイデアを出し合い、縮小について検討してみましょう。
妊娠・出産対しての支援を強化する
保育士さんは妊娠、出産する際に退職することも多いため、育児休暇後も働きやすい環境の整備を行うことは大切です。
子育てと仕事を両立できる職場を作り上げ、長期的に働くことができるように以下のような対策を立てるとよいでしょう。
結婚&出産祝い金を設定する
自園の福利厚生で「住宅手当」や「特別休暇」などさまざまな内容を設定していることが考えられますが、結婚や出産などの祝い金の贈呈に目を向けるとよいかもしれません。
祝い金は、園からのお祝いの気持ちを表現していることから、受け取る職員も、「この職場は結婚や出産に対して前向きに考えてくれている」という想いを抱きやすいでしょう。
また、若年層の保育士さんも先輩がお祝い金を受け取り、働き続ける姿を見ると、長期的に働く意欲を高めることにつながりそうです。
育児休暇の説明を積極的に行う
出産後の職場復帰を支援するためには、雇用側から職員に向けて育児休暇の説明を積極的に行うとよいかもしれません。
例えば、担任や副担任など重要な役割に就いていると「妊娠」を打ち明けられずに悩む保育士さんもいるでしょう。
その場合も育児休暇などの説明を行っていると、サポート体制に安心感があり、相談しやすくなりそうです。
育児休暇などの話題を定期的に発信し、保育士さんが働きやすい職場を作り上げていきましょう。
時短勤務などの制度の活用に取り組む
子育てと仕事の両立を支援するために、職員に向けて1日の所定労働時間を原則6時間とする時短勤務制度の活用を促すとよいかもしれません。
通常の勤務時間よりも労働時間を短縮して勤務できることから、出産後も働きやすくなるでしょう。
子どもが3歳になる前日まで利用でき、時短勤務からフルタイムへ戻すことも可能となります。
制度をよく理解して、自園の保育士さんに説明すると、退職防止、出産後の復職の後押しとなるでしょう。
出典:短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について/厚生労働省
保育士の退職理由を把握して人材の定着に役立てよう
保育士の退職理由は人間関係や労働条件に関する不満が多いため、離職防止に向けて各園の職場環境の見直しを行い、対策を立てる必要があるでしょう。
特に保育士が現場を離れる理由の1位である「職場の人間関係」を良好にするためには、職員向けに人間関係のアンケートを取るなど、現場の状況を把握することから始めるとよいかもしれません。
保育士さん一人ひとりが仕事に対してやりがいをもって取り組むことができるように、職場環境の整備を行い、人材の定着に役立てていきましょう。