人材の育成や保育の質の向上に役立つ「園内研修」は、職員のキャリアアップを支え、人材の定着化につながるでしょう。研修内容は「保育ドキュメンテーション」「10の姿」など普段の保育活動を意識したテーマを策定するとよいかもしれません。今回のコラムでは、園内研修の役割やテーマ一覧、実施する際の注意点などを紹介します。
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園内研修とは
園内研修とは、保育士の知識や技術の向上、保育の質を高めるために、園内で実施する研修のことを指します。
実施することで、職員同士が互いに仕事へのモチベーションを高められ、人材の育成や定着化を支えることができるでしょう。
近年は、認定こども園の設置や低年齢向けの地域事業型保育園の増加などで、保育業界は目まぐるしく変化しています。
管理者となる園長や副園長などが主体となって多様な保育ニーズに応えられるよう、職員の学びの場を提供していきましょう。
園内研修の実践方法
まずは、園内研修の実践方法を紹介します
保育活動を振り返るディスカッション
職員同士で行う「ディスカッション」は、普段の保育活動を振り返る際などに役立てる園内研修の実施方法のひとつです。
実際の保育現場での課題や悩みなどを取り上げ、互いが積極的に意見交換を行ったり、改善策を話し合ったりすることで問題の解決に向けて取り組むことができるでしょう。
また、日々の保育活動に追われ、職員同士のコミュ二ケーションの時間が取れていない場合も、園内研修を交流の場として活用できそうですね。テーブルや椅子さえあれば実施できるため、開催しやすい研修方法といえるでしょう。
公開保育による研究
公開保育とは、実際の保育活動を公開して園内や外部から見学者を招く方法です。実践している保育を見学しあうことで、互いの知識や技術を高め合うことができるでしょう。
また、公開保育では他園の特色を活かした活動を見ることもできるため、自園とは違った保育方針に触れ、保育士としての視野を広げることにつながりそうです。
絵本・リトミックなど専門研修
絵本の読み方やリトミックの指導方法など専門的な分野を学ぶ際には、研修を実施するとよいでしょう。経験豊かな園長先生や主任の方が主催者となることが多いようです。子どもたちにより多彩な活動を楽しんでもらえるよう、専門性を高め、知識や技術の向上を目指します。
また、保育の中で英語やダンスなどの活動を取り入れたいと考えている園もあるかもしれません。園児が表現力や創造力を育むことができるよう、保育士さんに向けて学びの場を提供できるとよいですね。
外部講師によるコーチング
外部講師を園に招いて研修を依頼するケースもあるようです。
「保育士のマネジメント」や「保育士の精神的ケア」など働きやすい職場を作り上げるための研修テーマを用意する場合もあるようです。園の保育士さんのみで行う研修よりも、緊張感をもって参加することができるかもしれません。
インターネットや書籍などからテーマ一覧を確認し、職員が興味・関心がありそうな分野のスペシャリストを招くことで、学びが多い園内研修となるでしょう。
園内研修の主な流れ
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次に園内研修の主な流れを把握し、スケジュールを立てる際に役立てていきましょう。
①日程の調整
園内研修の日程はその園の行事や保育活動の内容によって違いがあります。
定期的に研修が行うためにも、新年度が始まる4月には日程調整を行い、実施可能な日時を選定していきましょう。
この時期は新人の保育士さんが入社する園も多いことでしょう。職員同士の交流の場としても、4月の間に1度は開催できるとよいですね。
②テーマの選定
過去のテーマ一覧などを参考に、どのような園内研修にするか内容を考えていきましょう。各回に研修リーダ-を設け、担当者がテーマを決める場合もあるようです。
職員にアンケートを取り、「絵本の読み聞かせ」、「保護者対応」など興味や関心のあるネタを決定する方法もよいかもしれません。
③計画の立案
テーマが決まれば、実施日程に合わせて計画の立案を行いましょう。基本的に以下の項目を決めておくと園内研修がスムーズに進みそうです。
- 担当者
- テーマ
- スケジュール
- 記録方法
製作や遊びなどを題材にした場合は、あらかじめ研修に向けて指導案を作成する場合もあるかもしれません。他の業務と並行して準備を行うため、無理のない計画を立てて職員の負担にならないように注意するとよさそうです。
④研修実施
研修の実施については、担当職員以外の方も当日の流れをきちんと把握しておきましょう。担当職員が体調を崩してしまうことも考えられるため、代替えの担当者も決めておくことも必要でしょう。
また、外部講師を招く場合は打ち合わせを行い、講師の方がスムーズに進められるように事前にコミュニケーションをとるなど、配慮することも大切です。
⑤反省会の開催
園内研修を終えた後は、管理者や担当職員による反省会を行い次回に活かすことが大切です。
進め方やテーマの方向性は適切だったのか話し合うことで、職員の学びの場として実りある園内研修が行われるよう、各研修後に開催するとよいでしょう。
園内研修のテーマ一覧
ここで、園内研修のテーマ別の実例を紹介します。
【保育ディスカッション】設定保育の中で行う製作やゲーム
設定保育の中で子どもたちが楽しめる製作やゲームについてディスカッションしましょう。
ねらい
- 子どもたちが興味のある製作や遊びについて振り返り、職員同士で意見交換を行う
- 各年齢の子どもたちに合わせた援助方法について職員同士で共有し、理解を深める
進め方
1.各保育士の普段の日案をもとに製作やゲームについて話し合いを開始する
2.子どもたちの様子や反応、活動の進め方に対する不安や悩み、解決方法についてディスカッションを行う
3.研修の担当保育士が実施内容をまとめ、職員同士で共有する
保育士さんは業務量が多く、普段の活動を振り返る機会がなかなか設けられない場合も多いでしょう。園内研修では、園児が楽しく遊びに参加できるように、職員同士でアイデアを出し合い、コミュ二ケーションの場としても活用できるとよいですね。
【公開保育】10の姿
小学校入学までの幼児期に育んでほしい姿を示した「10の姿」。文部科学省が以下の項目を設け、幼稚園、保育所、認定こども園共通の指針として公表しています。
①健康な心と体 ②自立心 ③協同性 ④道徳性・規範意識の芽生え⑤社会生活との関わり
⑥思考力の芽生え ⑦自然との関わり・生命尊重 ⑧数量・図形、文字等への関心・感覚
⑨言葉による伝え合い⑩豊かな感性と表現
保育に携わる職員は「10の姿」を意識して、普段の活動に取り入れる必要があるでしょう。
ここでは園内研修の中で「10の姿」を題材とした公開保育について紹介します。
ねらい
- 年長組○○クラスの保育活動の中で、以下の「10の姿」への理解を深める
- 担当職員は10の姿を意識した活動を展開し、保育の質の向上を図る
進め方
1.担当職員が10の姿を意識した指導案を作成し、計画をもとに保育活動を展開する
2.他の職員は指導案をもとに、子どもたちの様子を観察、保育士の援助方法などを参考にしながら、どのような点で10の姿が養われているか考察・記録する
3.(2)の記録を基に、職員同士で話し合いの場を設け、小学校への引継ぎなどを意識して
意見交換を行う
「10の姿」は「保育所保育指針」同様、保育士や幼稚園教諭の共通の指針となります。子どもを見守る保育者として、研修を通して互いに共有できるとよいですね。
出典:「幼児期の終わりまでに育ってほしい幼児の具体的な姿(参考例)」/文部科学省
【外部講師による講習】保育ドキュメンテーション
園内研修で外部講師を招いて、今話題の「保育ドキュメンテーション」についての学びの場を設けましょう。
保育ドキュメンテーションとは、園児の会話や行動などの活動記録を写真や動画、コメントなどで残すことをいいます。子どもたちの保育内容を振り返りに活用できるでしょう。
ねらい
- 保育ドキュメンテーションの概要や内容を知り、普段の保育活動に活かす
- 保育ドキュメンテーションを活用し、保護者とのコミュニケーションの図り方を学ぶ
進め方
1.外部講師を招き、保育ドキュメンテーションの講習を開催する
2.普段の保育活動への活かし方、保護者との共有方法について職員同士で話し合う
保育ドキュメンテーションを取り入れることで、子どもたちの表情や行動をよりわかりやすく記録することが可能になります。研修で概要を知ると、保育スキルを高めることにつながりそうです。
園内研修を実践する際のポイント
園内研修を実践する際のポイントを紹介します。
園内研修の重要性を職員に伝える
まず、園内研修を行うためには、事前に実施する目的などを保育士さんにきちんと伝えることが大切です。
職員の中には多忙な業務に追われ、研修を行うことに不満を感じる方もいるかもしれません。まずはなぜ研修が重要なのか、学びの場の必要性を伝え、開催への理解を得ることが重要でしょう。
職員同士のコミュニケーションの場として活用する
園内研修は保育の質を高める学びの場としての役割だけでなく、職員のコミュ二ケーションの場としても重要なものです。
研修の際は保育士さん同士が互いの意見交換がしやすい、和やかな雰囲気を作りあげましょう。新人の方の中には、緊張して自分の意見がなかなか言えないこともあるかもしれません。
園長先生や主任保育士などが積極的に「このテーマについてどう思うかな?」と言葉をかけ、ディスカッションできるように配慮するとよいでしょう。
園内研修の資料作りを効率的に行う
園内研修の準備をするために、指導案や保育記録、レポートなどを準備することが考えられます。
手書きの場合は修正に時間がかかるため、パソコンやタブレットを利用すると作業がスムーズに進みそうです。
また、職員が手に取りやすいよう、園内研修に活用できる文献や書籍などを事前に選定し、職員室などに置いておくとよいでしょう。
園内研修を実施して保育士の人材育成・定着化に取り組もう
園内研修を実施することで、保育スキルを高め、職員のキャリアアップを支えていきましょう。
「10の姿」や「保育ドキュメンテーション」など興味や関心を抱くテーマを用意することも大切です。新しい題材を積極的に取り入れ、保育士さん一人ひとりの視野が広がるとよいですね。
園内研修を実施し、魅力ある職場を作り上げ、人材の育成・定着化につなげていきましょう。