保育園では、子どもたちの健やかな成長を支えるうえで「保育の質」の維持・向上に向けた取り組みが求められています。しかし、待機児童問題や保育士の人材不足など多くの課題があり、保育の質が十分に保たれていないのではないかという声も挙がっているようです。今回は「保育の質」問題の背景をふまえ、適切な保育環境を整えるための対策について紹介します。

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■目次
保育の質とは
子どもたちを健全に育成するために、「保育の質」の向上に取り組むことは大切であると言えます。
そもそも、保育の質とはどのようなものなのでしょうか。
厚生労働省の「保育所等における保育の質の確保・向上に係る関連資料」では、保育の質については一元的に定義することができないとしながらも、以下のように表記しています。
「子どもたちが心身ともに満たされ、豊かに生きていくことを支える環境や経験」
出典:保育所等における保育の質の確保・向上に係る関連資料/厚生労働省からの抜粋
上記の考えをふまえ、保育園では安心・安全な園生活を通して、子どもたちがさまざまな経験を得られるように環境を整えることが求められるでしょう。
しかし、近年、保育業界では多くの課題が取り沙汰されており、「保育の質」の維持について問題視されています。このような状況の背景にはどのような原因があるのか、詳しく見ていきましょう。
「保育の質」問題の背景
保育士の人材育成が進まない
保育の質を維持するためには、経験豊かな人材を配置することが必要になるでしょう。ただ、保育士さんの人材不足が深刻な問題となっており、担い手が不足している園も少なくありません。
「労働時間が長い」「業務量の多さから体力や気力が続かない」などさまざまな理由から職員が離職し、人材の定着・育成が円滑に進まず、保育の質の維持が難航するケースがあるようです。
職員の配置基準が緩和された
待機児童問題の解消に向けて設置が進んでいる認可こども園や小規模保育園など保育施設の多様化に伴い、職員の配置基準が緩和されています。
例えば、認可保育園では朝や夕方など人員が不足している場合、保育士の代わりとして、市町村の研修を受けた子育て支援員の方を配置することが認められています。
人材不足を補うために活躍が期待される一方、保育士資格が持たない人材の雇用に対して、適切な保育環境が維持できるのか疑問視する声も挙がっています。
このように保育の質の維持について懸念される中で、各保育園では職場環境の改善や人材の育成に取り組むことが求められているでしょう。
また、人材不足を補うためにも、採用活動を強化することが大切になります。
自園で保育の質の維持・向上を図るためにどのような対策を立てるべきか考えていきましょう。
出典:保育所等における保育の質の確保・向上に係る関連資料/厚生労働省
出典:保育所における保育士配置の特例(平成28年4月施行)の実施状況調査について/厚生労働省
保育の質を維持・向上するためにできること~職場環境の改善~

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保育士さんが働きやすい職場を作り上げることで、仕事へのモチベーションが上がり、保育の質の向上に役立つことが期待できます。
ここで、職場環境を改善するための方法を紹介します。
職員の勤務状況を把握し、役割分担を見直す
職員の勤務状況をしっかり把握して、勤務体制の見直しを図ることは、労働環境を整える第一歩となるでしょう。
勤務時間や残業時間、有休の消化率など保育士さん一人ひとりの状況を客観的に見て、「なぜ残業が多いのか」「壁面製作や行事の運営などで役割が偏っていないか」などを分析し、業務負担の削減に取り組んでいきましょう。
職員にアンケートを取り、負担を感じている業務について聴き取りを行うことも大切です。現場の声を集め、必要な対策を考えていきましょう。
職員の精神的なケアを大切にする
保育士さんは業務量が多かったり、保護者や職員同士の人間関係に悩んだりと精神的に落ち込む方も多いようです。そのため、気力や体力が続かずに離職してしまう方も少なくありません。
退職を防ぐためにも、職員同士が相談しやすい環境を作り、心身共にケアすることも大切です。
定期的に面談の場を設けるとともに、職員同士の交流会なども開催し、精神的な面をサポートできる体制を作り上げましょう。
人材の育成に取り組み、研修会を開催する
保育の質の向上を支えるうえで人材の育成に取り組むことが重要です。保育士さんはもちろん、無資格の方を雇用している園でも、知識や技術を習得する研修会を積極的に開催するとよいかもしれません。
また、職員同士で保育内容を振り返る場を用意すると、それぞれの課題を話し合うことができ、保育士として成長する機会にもなるでしょう。
保育の質の維持・向上を目指して~採用活動強化への取り組み~
人材不足を招くと、子どもたちを見守る充分な人員を配置できず、保育の質を保つことが難しい可能性があります。
このような状況に陥らないためにも、保育士さんを確保するための対策について詳しく紹介します。
雇用形態を見直す
保育園を運営する際、主に常勤の保育士さんを雇用している園は多いでしょう。しかし、ぎりぎりの人数で運営していると、職員一人ひとりに過度な業務負担がかかることも考えられます。
雇用形態の見直しを図り、補助パート枠の増加などに目を向け、人員の確保に取り組んでいきましょう。8:00~13:00や11:00~16:00など、短時間の勤務を設定すれば、子育てと仕事の両立を考えている保育士さんの応募の増加も期待できそうです。
人材の採用に向けて、多様な採用手法を取り入れる
採用活動で「紙媒体や求人情報サイトのみ利用している」「主にハローワークを活用している」という保育園もあるかもしれません。
最近では以下のように採用手法も多様化しています。
- ハローワーク
- 紙媒体の求人(求人情報誌、新聞紙、チラシなど)
- 求人情報サイト
- 人材紹介会社、派遣会社
- 転職フェア合同説明会
- 保育専門の大学や専門学校などからの紹介
- SNS
- 自園のホームページ
転職希望の方の中には、人材紹介会社や派遣会社を利用するケースも増えているようです。さまざまな媒体を人材の確保に役立て、保育の質の維持・向上を目指しましょう。
人材の受け入れ体制を整備する
保育の質の維持に向けて、職員の定着に取り組むことも必要でしょう。せっかく採用してもすぐに辞めてしまえば人材は育ちません。
事前に新人さんの育成計画の立案や業務の役割分担を行い、保育士としての成長を支える環境を作り上げましょう。
また、勤務開始後には、積極的にコミュニケーションを図るなど、早めに環境に慣れるように配慮できるとよいですね。
保育の質の向上を考え、保育士の働きやすい環境を作り上げよう
保育の質の維持・向上は、子どもたちの育ちを支えるうえで保育園に求められる重要な責務です。
そのためには、働きやすい環境を整え、職員の「保育士として成長していきたい」という気持ちを後押しできるような体制を作り上げることが大切になるでしょう。
また、人材不足などの問題がある場合は採用活動を強化し、職員が保育に集中できる環境を整備できるとよいですね。
各園で必要となる取り組みを整えて、保育の質の向上を目指していきましょう。
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