保育士の方なら、一度は「モンテッソーリ」という言葉を聞いたことがありますよね。「お仕事」や「異年齢保育」で有名な教育法ですが、具体的にはどのような内容なのでしょうか?今回のコラムでは、モンテッソーリ園で働く保育士が気をつけたいことや、普通の園との違いなどを見ていきます。
モンテッソーリって何?
モンテッソーリ教育は、医師であり教育家だった、イタリアのマリア・モンテッソーリ博士が提唱した教育方法です。モンテッソーリ教育の目的は、「自立していて有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」こと。
独特の教具を使用し、子どもの自発性を促すその教育法は、100年以上経った今でも時代や文化の違いを超えて世界中で支持され、現在世界140以上の国にモンテッソーリ実践園が存在しているといわれています。
モンテッソーリ教育の内容とは?
モンテッソーリ教育には「教具」と呼ばれる独特の教材が用意されています。子どもたちはその教具を自分で積極的に選び取り、「お仕事」として取り組んでいきます。お仕事には全部で5つの分野があります。
日常生活の練習
幼児は大人のすることをなんでも真似したがります。この模倣したい心を利用して、日常生活の自立に向けた練習をしていきます。具体的には、料理や洗濯、アイロンがけなどの家事から、はさみで切る、コップに水を注ぐ、ボタンをかけるなど日常動作の練習まで。
ポイントは、大人と同じ「本物の道具」を使うこと(ガラスや陶器も含む)です。子どもでも扱いやすいよう、形やサイズは調整します。
感覚教育
五感を洗練させ、ものの考え方を身につける練習です。「長い・短い」「重い・軽い」のような抽象的な感覚を、目に見える形に変換して理解していきます。具体的には、以下のような教具を使って取り組みます。
・音感ベルを使って、聴覚で音の高低を識別する
・ピンクタワーを使って、大小10個の立方体を大きさごとに積み上げていく
・色版を使って、色の濃淡の順にカードを並べていく
言語教育
言葉遊びやカードゲームなどを通して、「話す・書く・読む」能力を養います。「て・に・を・は」の接続詞も早くから学び、語彙力を高めていきます。
算数教育
数の基礎や十進法、簡単な計算を学びます。具体的には、10進法のビーズを使って単位を認識させたり、銀行遊びを通して四則演算を学ぶなど。これらの教具を使って数量を具体物で表現し、手で直接触れながら考えられるようにします。
文化教育
歴史や地理、動植物、音楽や美術など、さまざまな文化を多岐にわたって学んでいきます。教具は、世界地図パズルや時計、太陽系の惑星の模型などを使用します。
モンテッソーリ園は普通の園とどう違うの?
モンテッソーリ園には、ほかの保育園や幼稚園にはない2つの大きな特徴があります。
異年齢混合の縦割りクラス
モンテッソーリ園では原則、縦割り保育を行います。年齢の違う子どもたちが、兄弟姉妹のように同じクラスで生活します。そうすることで、年上の子どもが年下の子どもをお世話したり、年下の子どもが年上の子どもを真似したりするようになります。互いに刺激を受けながら、協調性や社会性を学びます。
お仕事の時間がある
1日の間で1時間~3時間程度、「お仕事」の時間を設けます。この時間は、自分で決めたお仕事にそれぞれ自由に取り組みます。物事に集中しながら知的好奇心を満たしていく、子どもにとって大切な時間です。
モンテッソーリ園といっても、保育中の全ての時間が「お仕事」になるわけではありません。このあたりは、通常の集団保育を重視している保育園と同様ですね。個別活動と集団活動、両方の時間をバランス良く組み合わせていることが多いです。
モンテッソーリ教育の園で働くには?
実際にモンテッソーリの園で働くことを検討している保育士さんに向けて、どのような心構えが必要かを話していきます。
モンテッソーリの指導って大変?
「モンテッソーリ」と聞くと何となく、「大変」で「指導が厳しそう」なイメージを持っている保育士さんもいるのではないでしょうか。
実際に、上記の5つのお仕事内容を読むと、モンテッソーリ園=教育にしっかりと力を入れている園、というイメージが沸いてくるかもしれません。しかし本来、モンテッソーリとは子どもの自由さや自発性に基づいた指導をすることを目的としています。
日本では、ひと口に「モンテッソーリ園」と言っても、英語を導入していたり、畑の栽培をしていたり、教具や音楽に力を入れていたり、園ごとにさまざまな特徴があります。応募を考えている場合はぜひ一度見学に行って、希望の園がモンテッソーリをどのような形で取り入れているかを確認しておきましょう。
資格は必要なの?
モンテッソーリは、以下の3つの機関でそれぞれ独自の資格を取得することができます。
・国際モンテッソーリ協会
・日本モンテッソーリ協会
・日本モンテッソーリ教育綜合研究所
モンテッソーリ園で、モンテッソーリ教員として働く場合は何かしらの資格が必要ですが、保育士として働く場合には特別な資格は必要ありません。
ですが、応募する前に一度はモンテッソーリの指導法に目を通し、教育理念に共感する姿勢や、学ぼうとする意識は持っていた方が良いでしょう。
保育士の姿勢
モンテッソーリ園で働く保育士には、どのような姿勢が求められるのでしょうか?大切なのは、保育士の方から子どもに何かをさせるのではなく、あくまで子どもの自発的な成長をサポートすることです。
●子どもを一人の人格としてとらえ、頭から指示を出すことはしない
●子どもの要求によく耳を傾ける。言葉だけでなく、態度や表情から気持ちをくみ取る
●子どもが「できない」と言ってきても、先生が代わりにやってしまうようなことはしない。あくまで自分でできるように促し、子どもの達成感を奪わないようにする
●子どもの「お仕事」を尊重する。集中しているときは大人の都合で中断させない
具体的には、このような点に気をつけると良いでしょう。ただ、これらのことは、通常の保育園でも求められる姿勢。モンテッソーリだからと特別な気負いは必要ありません。
まとめ モンテッソーリで子どもの個性を伸ばそう
モンテッソーリ教育には、子どもの成長を促す工夫がたくさん詰まっています。モンテッソーリを導入した園で実際に働いてみたり、見学するのも良いですね。もしそれが難しくても、一度は参考書などに目を通してみることをオススメします。
長年、世界中で取り組まれており、実績もある教育法なので、保育士として学べることが必ずあるはずです。モンテッソーリ教育の良いところを、ぜひ自分の保育にも取り入れてみましょう。