大豆生田啓友先生インタビュー【前編】将来に大きな影響を与える「遊び」の意味や重要性

「子どもの主体性」に着目する園が増えてきているいま。乳幼児期の”遊び”にはどんな意味があり、どれほど重要なのでしょうか。今回は、玉川大学の教授を務める大豆生田啓友先生にインタビュー。子どもたちにとっての遊びの大切さや、主体的な保育を実現していくために現場や保育者に求められることは何かを紐解いていきます。


大豆生田先生 トップ画像

子どもの将来に役立つ「遊び」の重要性

 

Q.大豆生田先生が捉える「遊び」の重要性について教えていただけますか?

 

「遊び」っていま自分がやりたいと思うことに夢中になったり没頭したりして、ワクワクしながらする経験ですよね。

 

自分がやりたいことに夢中になって、時間を忘れて遊び込める。

これ以上幸せなことってありません。

 

だから、人生のスタート期に自分が生まれてきたこの世界というものが幸せなんだ、と実感できることそのものが重要になります。

 

つまり、いまワクワクしながらやりたいことに夢中になれる世界があることは、”人が幸せであること”
なので、そういう意味でいうとそれそのもの自体が大事に決まっているんです。

 

そしてそれは、将来にまで役に立つ可能性があります。

 

なぜかというと、小さな頃に思い切り遊ぶことを大事にしてきた人は、大人になってからふと「小さい頃あんなに面白かったよな」って、自分の幸せな記憶として残っているからです。

 

幸せな記憶を持てているってことは、大人になってから多少嫌なことがあってもそれを乗り越えていく力になる。

 

だから小さな頃に、遊びだけじゃなくて周りの人に愛された経験と自分が何かに夢中になれた経験っていうのは、後々になってからも「自分が幸せだった」という根っこを持っているということです。

 

これが最近の研究でいう「非認知能力」というものになります。

 

―”何か夢中になれた経験”は大人になってからもいい影響を与えているのですね。



光る泥だんごと絵

「何かに夢中になること」は、乳幼児期だけじゃなく大人になってからも非常に重要になります。

 

たとえば、僕の大学一年生の授業では学生たちと「光る泥だんご」を作るんですけど、 みんな最初できると思って作ってみてもたいていヒビが入ってダメで。

 

何度も失敗するんだけれど、最後には多くの子たちが「できた!」って、完成したものをビニール袋にいれて帰っていくんです。

 

つまり、多少大人になってからもうまくいかないことに対して、
”こういうことしたい” ”乗り越えたい”という思いがあるということ。

 

非認知能力は、うまくいかないことを自分の気持ちを切り替えて乗り越えていく力なので、大人になってからも何かに夢中になるってすごく大事なんです。

 

いままで将来に役立つことって、文字の読み書きなどの”目に見えるようなできること(認知能力)”だったんだけれど、

  • 何かに夢中になれること
  • うまくいかなくても乗り越えていくこと
  • 人と協力できること


という”目に見えないこと(非認知能力)”が、実は人が生きていくうえで幸せになっていくことだったり、将来の経済にもプラスな影響を与えたりするというのが最近の研究でわかってきています。

 

だから僕からすると、これらを大事にしないのが有り得ないというわけです。

 

Q.大豆生田先生の本に「非認知能力を育てる遊びのレシピ/講談社」がありますよね。
その中に「子どもの気持ちに寄り添う関わり方が非認知能力を伸ばすことにつながる」とありますが、
どんなかかわり方が”子どもの気持ちに寄り添う”と考えていますか?

 

人って主体性を発揮するなかで、うまくいかないことを自分なりに乗り越えていく人もいれば、やめちゃったり嫌な気持ちになったりする人もいますよね。

 

でもそのときに、隣に誰かがいてくれるかどうかで変わる人もたくさんいます。

 

さっきの「光る泥だんご」で言うと、泥だんごをうまく作れないまま終わるのか、
それとも「いやいやあれよかったよ。あともう一歩だから次のときこうしようよ」と言ってくれる人がいるかで、次への希望につながるかどうかが違ってくるんです。

 

だから、子どもの気持ちをきちんと理解し肯定的に受け止めることが、子どもの気持ちに寄り添うかかわり方と言えるのではないでしょうか。

 

ーそのなかで芽生える信頼感ってとても大事になりますね。



子どもに手を伸ばす様子

makieni/shutterstock.com

 

そうだと思います。

 

小さい頃から親だけでなく、保育園のなかに自分のことをちゃんとわかってくれる大人がいることで、
子どもは自分のいいところを思い切り出せるようになります。

 

つまりそこで信頼関係を築けるかどうかが、保育者としてのプロの見せ所なんです。

 

でも、20人とか30人の子どもがいれば、いろんなタイプの子がいたり、大人の意図通りにいかない子もいたりしますよね。

 

だけどそのなかで、一番手のかかる子と信頼関係を築くことができれば、その子との関係性はスムーズになっていくでしょう。

 

プロの保育者であるということは、いろんなタイプの子どもをちゃんと受け止めて見ることができるかどうかなので、「この子はだめな子」「できない子」のようにラベル付けしてはならないということになります。

 

だから、子ども一人ひとりが持っている一番いいところを出せるように、子どもをしっかりと理解して受け止めることが保育者として大事なことと言えますね。

「遊び」は”人と人をつなぐ”もの

 

Q.時代の変化によって子育て環境や遊び方なども変わってきていると思います。
昔といまを比較して感じていることなどはありますか?

 

昔は、親以外の地域の大人や異年齢の子どもの中で、”自然”に育てられていました。

 

だけどいまは、核家族が多くて密室。

子ども一人だけでは外にも出せない、狭い子育て環境だと感じています。

 

だから遊びに関しても、昔と違って子ども同士が関わったり、外で思いっきりどろんこになったりできないですよね。

 

安全管理だけでいうと、”リスクのあることは何もさせないほうがいい”ということになりますが、
遊びの中で人と関わりをもったり、自然と触れ合ったり、外で思い切り遊んだりするほうが子どもの発達にいいことがさまざまな研究からわかっています。

 

いまって、外遊びや自然との触れ合いを保証してくれる場所が保育園や幼稚園、認定こども園になっているので、子どもにとってそういうことをたっぷりできる園の存在はものすごく大きいなと思っています。

 

ー大豆生田先生のお話のなかには、自然遊びや外遊びのほかにも「絵本」がよく登場していますが、「絵本」はどんな位置づけなのでしょうか?


大豆生田先生の研究室にある絵本の様子

まず、絵本は「人と人をつなぐもの」だと思っています。

 

なぜかというと、小さな頃に絵本をたくさん読んでもらった子どもって、意外にも読んでくれた人のことを覚えているんです。
なぜかというと、個別に絵本を読んでもらったことが、自分がその人から”愛された”、”大事にされた”という実感が大きいからです。

 

あとは、絵本のお話で印象的だった部分が、後々自分が生きていくうえでの”哲学”みたいなものになります。

 

意外と忘れてしまいがちですけど、気づかないところで絵本の世界に親しんだことが、不思議とその子のなかにずっと残り続けるんじゃないかなと思っていますね。

 

―保育園では、個別だけでなく、10人など複数の子どもに対して読み聞かせをすることもありますよね。

 

保育園という場所で絵本を読むことは、「みんなでいっしょに楽しむこと」につながっていきます。

 

「車がすき」「昔話がすき」のようにそれぞれタイプが違うんだけど、みんなで読むことで、子ども一人ひとりいろんな声を出すようになります。

 

つまり、「僕、ここ面白いんだよな」とか他の子の声を聞くと刺激になって、自分が普段読まない絵本にも興味を持つようになるということです。

 

だから家庭だけでなく、みんながいる保育園という場所でいろんな絵本に出会えるということは、
”その子の世界が広がる”といえるでしょう。

 

―大人になってからもお気に入りの何冊かってありますよね。

 

絵本ってあるとき読まなくなるんですけど、大人になったときにふと見てみると、いろんな記憶が蘇るものですよね。

 

また、場合によってはいい絵本に出会っていることで、自分が親になったときにそれを自分の子どもに活用できるので、次への循環にもつながるという良さもありますね。

子ども自身が遊びを選べるようにする大切さ

 

Q.保育現場ではこれまで以上に「子どもの主体性」を意識した保育が求められますが、
遊びの環境を作るうえで現役時代に意識していたことなどありますか?


園内で遊ぶ子どもと先生

milatas/shutterstock.com

 

環境構成では、その子が一番「遊びこむことができるか」ということを意識して、
いまこの時期に子どもたちが興味、関心がある環境に十分なっているか、あるいは子どもの声を聞いて
”じゃあこういう物を出してみようか”という風にしていました。

 

実際、いい園、魅力的な園ほど子どもたちが遊びを選び取れるようになっています。

 

しかし、反対にいうといろいろな物を出せる、選び取れる環境にするということは、管理が大変であるという意味でもあります。

 

だけどそこを子どもたちが選べるようにしていたり、多くの種類のものを用意していたりする園は、「このおもちゃとこのおもちゃを組み合わせるとこんなに面白くなる!」とかいろんなことが起こるようになっています。

 

つまり、遊びの選択肢がある環境というのは、子どもを人として尊重しているかどうかがわかるということです。

 

だからどこの園も、遊びを選び取れる環境にしていくべきだと思います。

そうしないと、子どもが充実して何かに夢中になることが難しい

 

教育の観点から考えても、さまざまな遊びを通していろいろな文化にであってほしいなと思いますね。

 

【前編・終】

前半は、子どもにとっての遊びの重要性についてお伝えしました。
後半では、「大豆生田啓友先生インタビュー【後編】子ども主体の保育を実現するために、”いま”できること」をお届けします。

 

大豆生田啓友先生・プロフィール

大豆生田先生プロフィール写真


 大豆生田啓友(オオマメウダヒロトモ) 先生




 青山学院大学大学院修了後、幼稚園教諭等を経て、現在、玉川大学教育学部 乳幼児発達学科の教授(学科主任)を務める。

 保育学・幼児教育学・子育て支援を専門。
 幼児教育・保育および子育て家庭の支援にかかわる仕事を目指す学生さんに向けてワークショップ(体験型・協同型・デザイン型)による育成を行う。

 現在、日本保育学会副会長のほか、日本乳幼児教育学会理事、こども環境学会理事を務める。2018年5月から現在では、厚生労働省の保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会の座長代理を務め、保育の質向上に向けた取り組みを行う。

 「日本が誇る!ていねいな保育」(小学館)「語り合いで保育が変わる」(学研教育みらい)などの書籍執筆のほか、講演会やNHKのEテレ「すくすく子育て」に出演するなどコメンテーターとしても幅広く活動している。


<取材・執筆・撮影>保育士バンク!編集部



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