内田伸子先生インタビュー【前編】保育者の声かけは最小限に!「主体的な保育」のためにできること

「保育者主導の一斉保育」から、「子ども主体の保育」へと転換しつつあるいま、援助者として保育者はどうあるべきなのか。今回は、発達心理学を専門とする内田伸子先生にインタビュー。「保育の神様」堀合文子先生(「幼児教育の父」倉橋惣三の愛弟子・お茶大附属幼稚園元副園長)の保育実践で学んだ経験をもとに内田先生が伝える、保育の在り方や保育士の仕事の魅力について迫ります。


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現在、IPU環太平洋大学教授、福岡女学院大学大学院客員教授、お茶の水女子大学名誉教授、十文字学園女子大学名誉教授を務める内田先生。
発達心理学をはじめ、言語心理学、認知心理学、認知科学、保育学を専門としています。

 

もともと「目に見えないメカニズム」に興味があった内田先生は、心理学・脳科学に関心を持つなかで、学部時代に出会ったヴィゴツキーにも大きく影響を受けたそう。

 

現在は、大学や講義などで保育者に向けて倉橋惣三先生と堀合文子先生の実践を紹介するとともに、ヴィゴツキーの提唱した理論「足場かけ(Scaffolding)」をセットで解説しているようです。

 

子ども中心の保育を実現するために、保育者としてどのようなかかわり方をすればよいのか。保育の神様と呼ばれる堀合文子先生との出会いから紐解いていきます。

 

「子どもと対等」が尊重される環境が子どもの主体性を育む

 

ー堀合先生との出会いは「学生のための保育記録の撮影」

 

堀合先生との出会いは、お茶の水女子大学附属幼稚園の園長、外山滋比古教授からのご依頼がきっかけでした。

 

当時(1982年4月)、堀合先生が「保育の神様」と呼ばれていたことも知らず、また「日本の幼児教育の父」と呼ばれる倉橋惣三お茶の水女子大学名誉教授の愛弟子であり、その保育原理を現場でもっとも体現されている存在だったことさえも知りませんでした。

 

そんななか、定年を3年後に迎える堀合先生の保育記録を、保育実習生のためにビデオに残しておきたい、というお話があったんです。

 

それを機に毎週火曜、子どもを迎える朝の時間から帰りの時間までを見学させてもらっていたのですが、子どもたちは自分の家にいるかのように遊びに熱中し、落ち着いて活動に取り組んでいたんです。

 

そんな姿を見て、不思議と感動を覚えたのと同時に、私がもともと抱いていた幼児教育とはずいぶんかけ離れていたのでショックを受けた記憶があります。

 

けれども、なぜこんな状況を作り出すことのできるのか、堀合先生の保育の秘密を知りたいと思い、3年間記録するようになりましたね。

 

ー内田先生がもともとイメージしていた「幼児教育」とはどんなものだったのですか?
また、それは堀合先生の保育に出会ってどのように変わったのか教えていただけますでしょうか。


シャボン玉をふく子ども

yamasan0708/shutterstock.com

 

私が通っていた地元群馬県の幼稚園は、「お絵描きの時間」「体操の時間」「あいうえおの時間」と時間割が決められた「一斉保育」でした。

 

当時はそうした「先生が教え、園児が教えられる」という小学校のような環境が、先生と園児の関係性であり、幼児教育なのだと思っていました。

 

一斉保育の場合、「〇〇をやりましょう」と保育者の声かけによって活動を始め、先生が遊びを提供します。
そうすると、大人の権威が大きくなってしまう。子ども自ら活動に取り組んだり、考えたりするということが身に付きにくいんですよね。

 

しかし、自由保育など子ども中心の保育の場合、一斉保育に比べれば大人の権威はずっと小さいのです。
子ども自身で考えたり遊びを選択したりできる環境が、子どもの主体性が大事にされていると感じました。

 

つまり、保育者は「上から命令する人」ではなく、「子どもとともにある人」「子どもと対等な関係」であるということ。

 

「子ども中心の保育」あるいは「子ども主体の保育」こそが、子どもが成長できる保育ではないかと気づきましたね。

いつでも子どもが主人公。堀合先生の現場で体感したこと

内田伸子先生オンライン取材時の様子 オンライン取材の様子

ー子ども中心の保育、あるいは子ども主体の保育こそが「子どもが成長できる保育」とお話してくださった内田先生。堀合先生の現場を観察して実感したことを教えてください。

 

 

子どもが「主人公」であり、保育者が「脇役」であるということです。

 

そもそも、「子ども中心=放任」ではありません。

 

保育者は、子ども一人ひとりの発達過程や活動状況を踏まえながら、子どもが遊びのきっかけを掴めるような保育環境にしたり、言葉がけや援助を工夫したりする必要があります。

 

そのうえで、子どもが遊びに熱中しているときは見守り、遊びが停滞しているときは一歩前へ進めるようにヒントを与えます。これが、子ども中心の保育です。

 

その中で、堀合先生は5つの援助水準を設けていました。

 

①見守る

 

これは放任ではなく、「いま子どもに何が起こっているのかな」とレントゲンのような目で子どもの心の機微をきちんと見守る、ということです。

 

②足場かけ

 

子どもの見晴らしをよくするために、足場をかけます。ただ、保育者が与えた足場を使うかどうかは主人公である子どもが決めます。

 

私がかつて影響を受けた、ヴィゴツキーの提唱した概念でも、「足場かけ」は特に重視されています。

 

③省察・促し

 

「どうしたらいいだろう?」

「もう一回考えてみたら?」

「こうなるのはなぜかしら?」

 

と、答えを与えるのではなく、もう一度子ども自身で考える・振り返られるように促します。

 

④誘導

 

「~かもしれないね」「~したらいいかもね」などと声をかけ、解決の手だてや道筋を提案します。

 

保育者が断定的な言い方をしてしまうのではなく、あくまでも考える主体は子どもです。

 

⑤教導

 

文字通り、「教え、導く」といった、トップダウンに回答や解説を与えることを意味します。

 

これらは、①~⑤と数字が大きくなるにつれて、大人の統制力が強くなります。

 

堀合先生の保育を3年間記録していましたが、5つ目の「教導」と呼ばれる援助や、子どもに対する禁止や命令は一度もありませんでした。

 

また、堀合先生の恩師、倉橋惣三先生もできれば「教導」は避けたいとお話しています。

 

①「見守り」②「足場かけ」③「省察・促し」は子どもに考える余地を残す言葉がけですよね。保育者の皆さんはぜひ心がけてほしいと思います。

声かけの巧みさが光る。子どもの内面を汲み取る保育者の援助

子どもの写真

siro46/shutterstock.com

 

ー子ども中心の保育には、保育者が脇役となって援助することが求められるのですね。
そのような保育を実践するために一番大切なことは何だとお考えですか。

 

子どもをしっかり見守って、そして充実して遊びに熱中できるような環境を作ることです。

 

子ども中心の保育では保育者の声はほとんど出ません。徹底して子どもが主役、保育者は脇役なんですよ。

 

ある附属幼稚園の例をご紹介しましょう。年長児が卒園を1カ月後に控えた2月のことです。

 

そこの幼稚園の園庭には、鯉がたくさん泳いでいる大きな池があります。
ある日、年長組の男の子がその池の鯉を数え始めました。


「1、2、3…ダメだ、動いちゃう。もう一回!」と、何度数えてもうまくいかなかったんですよね。


そこではじめの男の子が3人の友だちを呼んできて、「鯉って音のするほうに近寄ってくるよね。だから池の端っこに立って、みんなで拍手して呼び集めるんだ。あとで数を合わせよう」と提案しました。


そして、4人の子どもたちは21匹、18匹、14匹…と自分に集まった鯉を数えたのですが、「じゃあ全部で何匹?」と考えた途端、困ってしまったんです。



そのとき、分担して鯉を数えている様子をそっと見守っていた保育者は、子どもたちが「困っているな」とわかった瞬間、あることをしました。


庭に敷いてあった玉砂利を一個拾って「これなら動かないんじゃないの?」と声をかけたんです。


はじめの男の子はそれを受け取って少し考え、大きくうなずいたあと、自分の数えた分だけの玉砂利を拾い始めました。


他の3人の友だちも同じように、自分の数えた分だけを拾い集め、4人分の大きな山ができました。



そして、声を合わせて「1、2、3……64」と最後の数が64となったとき、4番目の子どもが「あ!石は”全部”で64個ある!じゃあ池の鯉は全部で64匹だね!」と言って、みんなで満足そうな顔をしていました。

 

このエピソードでは、子どもが困っている瞬間に保育者がそっと足場をかけているのがわかるでしょう。

 

このときの保育者の援助には3つのポイントがあります。



鯉を数える子どもの様子

Shchus/shutterstock.com

 

①動くものを ”動かないシンボル”に置き換えて数え上げたこと。

 

それぞれが数えた石を集めたら、鯉の集合の数になる。つまり分解と合成です。
そして数え上げが4歳にはできるというのがわかって声をかける。これが保育者の専門性ですよね。

 

②ヒントを与えるときに、玉砂利という名詞を使わずに「これ」という代名詞にしたこと。

 

「石」という名詞を使ってしまうと、子どもたちの目的は鯉ではなく石を数えることになってしまいます。

 

③「動かないよ」と断言をするのでなく、「これなら動かないんじゃない?」と省察を促したこと。

 

子どものつまずきに対して、答えを教えたり解説したりするのではなく、子ども自身で考えられるよう促しているということです。

 

つまり、子どもが主役となって興味のあることに取り組める環境を作るのが保育者として大切になるんですね。
これこそが真に「子どもが主体的に遊ぶ」ことにつながると思います。

 

その日、降園前のサークルタイムで鯉を数えた子どもたちに「池の鯉は何匹いたか」「どうやって数え上げたか」をクラスみんなの前で説明してもらいました。そのあと、先生とクラスの友だちが、”グッドアイデア賞”として鯉を数えた子どもたちにメダルをかけたんですね。

 

鯉を数えた子どもたちは胸を張ってよろこんでいて、それを見ていた私はすごくうれしい気持ちになりましたね。

 

ー子どものつまずきにうまく足場がかかった素晴らしいエピソードですね。そういった子どもの内面を汲み取るようなかかわりをするには、何が求められるのでしょうか。


苗を大切に持つ子ども

metamorworks/shutterstock.com

 

繰り返しになりますが、やはり「子どもをよく見守ること」です。

 

子どもが何をやろうとしているのか、何か困っているのか、レントゲンのような目で子どもの内面を洞察することが大切と言えるでしょう。

 

だから保育者は、子ども一人ひとりの体の動きはもちろん、頭のなかや心の動きにも目を向けながら、「待つ」「見極める」「急がせない」で見守ることを大事にしてほしいですね。

 

本当に子どもが主体となっていて保育をしている園では、子どもたちは朝から晩まで好きな遊びをしていて、保育者の声はほとんど聞こえないのです。

 

なぜなら、子どもが主人公だから。

 

脇から子どもを支える役割をしている、これが保育者のあるべき姿なのですね。

 

【前編・終】

 

前編では子ども主体の保育に求められる「保育者の見守り」の大切さについてお伝えしました。
後編では、子どもに適切な援助をするための保育計画の重要性についてお届けします。

 

<取材・執筆・撮影>保育士バンク!編集部

 

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