前職は戦略系ファームコンサルタントの職に就き、さまざまな業種のコンサルを手掛けてきた株式会社nexus(愛知県日進市)代表取締役会長 鈴木豪氏(以下、鈴木会長)。最近ではYouTubeチャンネルを開設し、自身の経験に基づいた実践経営学や社会人に必要なビジネスマインドを発信している。そんな鈴木会長がいま、保育士の生涯雇用を実現するため、業界でも類を見ない取り組みを行なっている。
同社が運営するmemorytree保育園では、nano・universeプロデュースのコラボ制服の導入や美容室、ネイルサロンとの提携など保育士として働く女性が輝き続けられる環境作りに尽力。業界でも珍しい取り組みが話題になった。「保育士さんが安心して生涯働ける会社を作りたい」と願う鈴木会長の想いを取材した。
株式会社nexus代表取締役会長 鈴木豪氏
▪YouTube「“新しい気付き”がきっと見つかる」ビジネス系YouTubeチャンネル
■目次
今のままでは、保育士の生涯雇用は実現不可能
---鈴木会長は保育士の生涯雇用を実現したいという想いとは裏腹に、簡単に保育士の待遇を上げることができない保育業界の課題に直面している。
株式会社nexusの理念は、“「何を」するかではなく、「誰と」するかにこだわる”。だから、選ぶ縁を大事にしています。目の前にある縁を片っ端から大事にするということではなく、自分が見極めて、「この人と深く、濃く付き合っていくぞ」と思える縁を探して、“ちゃんと握手しよう”という意味です。
そして自分が選んだからには、「握手をしたその人と一生涯一緒にやっていく」という覚悟をもっています。
“「何を」するかではなく、「誰と」するかにこだわる”という理念を実現するため、私は保育士さんを生涯雇用するというビジョンを立ち上げました。
保育士さんを生涯雇用するためには、給与を上げる必要があります。
口で言うのは簡単ですが、実際そうはいきません。
現在の保育業界は、政府が支給する補助金が上がらないと保育士さんの給与が上がらない仕組みになっています。
とはいえ会社の代表が補助金にとらわれていたら、「保育士さんを生涯雇用したい」「給与を上げていきたい」という想いは嘘になり、自分たちの努力は関係無く、政治家や評論家の意見を待つことしかできません。
だから私は経営者として、今自分たちの努力で出来ることを模索していこうという姿勢でいます。
プロのサービスを提供する保育園だけが勝ち残る時代に
これまでは待機児童が社会問題となっていました。
しかし、2、3年後には子どもの数が急激に減少するといわれています。
そうなった時に“選ばれる”保育園となるには、保育のプロとしてその時代時代の子どもたちに合わせた「より良いサービスと保育」を追及し、今自分たちにできる努力をしていく必要があると考えています。
保育士さんの生涯雇用を実現するべく私は勝ち残るための努力を惜しみません。
正かどうかはわかりませんが、私たちは挑戦し続けると同時に挑戦することの必要性を身をもって保育業界に発信していきたいと思っています。
「プロ=顧客のニーズに応える」という意識を持つ
---どの市場においても、「市場において答えを出すのは顧客である」ということを忘れてはならない。
プロの仕事とは、顧客を第一に考えること。
保育士さんにとっての顧客は子どもたちと、その保護者さま。だから、プロとして「保育の正解を出すのは子どもたち」という意識を持ち続ける必要があります。
保育士さんが思う理想の保育観だけでなく、保育の本質に基づいて常に価値観や方法を更新できることが第三者に認められるプロだと私は思います。
たとえば壁面装飾を作る際に「子どもが喜ぶだろう」という固定概念からキャラクターの絵を描いたとします。しかし、その装飾を見て喜ぶ子どももいれば、そうではない子どももいるかもしれません。喜ばない子どもがいるということは、まだ正解を探る余地が残っているということだと思うのです。
「保育の正解は子どもが出す」という前提のもと、保育士さんはその子にとっての正解を探し続けるべきだと思っています。
また、プロはフィクションではなくノンフィクションや真実を伝えるべきだと思っています。
嘘が許されないのがプロの世界。
だからこそ、memorytree保育園の保育士さんにはプロとして子どもたちに本物を伝えてほしいと考えています。
プロとして子どもたちが本物に触れる機会をつくる「美育活動」
美育活動の一環として「本物の花に触れる」機会を作る
---プロの保育士である以上「子どもたちに本物を伝えるべき」という鈴木会長。実際にmemorytree保育園では、“本物に触れ、知り、伝え、感性を育む”という定義で「美育活動」を行なっている。
美育活動の出発点も「保育の正解は子どもが出す」という前提に基づいています。
大人が持つ固定概念やプログラム化されたものだけを押し付けるのではなく、“本物”を伝え、知った上で子どもたち自らがさまざまな選択肢の中から選び、正解を出すべきだと思っています。
まずは子どもたちにいろんなことを伝えていく人であってほしいと思うのです。
いわゆるフィクションではなく、ノンフィクションの世界です。
たとえばmemorytree保育園の園舎は園ごとにコンセプトを持ち、オールドアメリカ風やスペイン風など実際の街並みに基づいて作られています。
保育士さんがコンセプトとなっている国のお話や建物の特徴を保育の中で伝えていくことで、子どもたちは本物を知ることができ、それはその子の記憶のひとつになります。
赤い壁が印象的なスペイン風の内観「memorytree保育室八事園」
「オールドアメリカン」をコンセプトとした海外のお家のような外観「memorytree飛香台保育園」
たとえばその子が将来スペイン旅行に行ったときに「あ、私この建物知っている」と思えたとしたら、memorytree保育園で本物を教えている価値があると思うのです。
これが美育活動です。
園舎を例に挙げましたが、その他にも花や色、アートなど様々なジャンルの本物に触れる機会を作り、ものごとへの興味を広げています。
そして将来、子どもたちが「memorytree保育園で教えてくれたことは本物である」ことに気づき、本物を教えてくれる保育園があるということを友達に伝えたり、SNSで拡散したとします。
そうすると、第3者から第4者にその評判が届き、まずはmemorytree保育園で働く保育士さんの評価が高くなり、プロとしても認められます。そしてその評価が保育士という業種の地位向上や待遇改善につながるのだと思っています。
---保育士の生涯雇用を実現するためにも、保育士ひとりひとりがプロの仕事をすること。そして第3者からプロとしての評価を得て、保育業界全体の社会的地位や収入を上げる必要があるということだ。
プロの経営者として、プロの保育士の就業環境を整備する
---従業員にプロであることを求める以上、成果を出せる就業環境を整えるのがプロの経営者の仕事。memorytree保育園を運営する株式会社nexusでは、従業員が保育に集中できるようさまざまな制度を整えている。
福利厚生の一環として取り入れられたnano・universeプロデュースのコラボ制服。
---たとえば保育士が事務作業のために残業することの無いよう、各園に事務作業を行なう専任のスタッフを配置。住宅手当・借り上げ社宅制度はもちろんのこと、従業員の声を形にしたnano・universeプロデュースのコラボ制服や美容院、まつ毛エクステサロンとの提携、美容手当の支給などさまざまな福利厚生を整えているのもその一環だ。
保育士は日々子供たちの命と向き合う重責な仕事です。だからこそ保育以外の部分でストレスとなっている我慢や不満をひとつずつ解消できるような企業でありたいと考えます。
たとえばnano・universeプロデュースのコラボ制服。
保育士としても女性としても品格を持ち、輝いてほしいという思いとともに、自身の身なりに手が回らなくなりがちな保育士の毎日の楽しみのひとつになることを願って作られました。
心の充実が本物の笑顔を引き出し、本来の能力を発揮できる。そんな環境がより質の高い保育へとつながるのだと信じています。
そして何より“「何を」するかよりも「誰と」するかにこだわる”という理念を実現するために、会社と保育士さんが両思いでありつづける努力をしたいと思っています。
当社の理念に共感して入社してくれた保育士さんは私にとっては守りたい人。そしてその人の可能性を広げたいと思っています。
だから保育士さんたちがいろんなキャリアステージを選べるように、いろんなキャリアプランを考えています。
たとえばキャリアアップしたい保育士さんがいて、会社としても「その人にやってほしい」という両者の思いがあって。そこではじめて昇格や昇進をするという流れを大事にしています。
「やってください」という依頼ではなく「自主的に」という言葉と共に、会社が「一人の保育士さんのキャリアに合意する」という状態を作りたいなと思っています。
保育士が一生涯安心して働ける会社をつくりたい
株式会社nexus代表取締役会長 鈴木豪氏---鈴木会長は、「保育士」という大きな括りではなく、自ら選び握手した保育士一人ひとりの顔を思い浮かべるように話してくれた。
安心して生涯働ける会社を作るといっても、決して簡単なことではないと思っています。
それを生涯かけて実現していくつもりです。
今後の取り組みとしては、小さいものと大きいものが1つずつ。
小さなところでいうと、新しい手当を新設しようと思っています。2カ月に1回くらい、美味しいコーヒーが飲める手当などなど。
大きなところでいくと、全国展開。
その保育士さん自身が望まずとも配偶者の転勤などを理由に退職してしまうことがあります。だから、全国どこに行ってもmemorytree保育園で働ける環境をつくりたいと思いました。
そこでmemorytree保育園では来年から本格的に全国展開をしていきます。
2022年4月には、北海道、奈良県、千葉県、埼玉県の開園が決定しています。
現在(2021年12月現在)memorytree保育園は愛知県に18園ありますが、働いている保育士さんは求心力が高く、日本全国各地から来てくれています。
全国にmemorytree保育園があることで、実家のお母さんに、
「memorytree保育園で働いているのなら安心だね」
と言っていただけたら、その保育士さんも幸せだと思うのです。
そんな「第3者からも認められる会社」を目指すことで、memorytree保育園の保育士さんにとっても、安心して生涯働ける会社になるのではないかと思っています。
---更なる少子化の波が押し寄せてきたとき、他の士業と同じく「本物を伝える」ことでプロとして保育士の地位を確立し、生涯雇用ができる土台を整える株式会社nexus。「何を」するかよりも「誰と」するかにこだわり続ける鈴木会長。転職が当たり前になっている今、「一度握手をした仲間だからこそ」と、現代の日本で薄れつつある生涯雇用に本気で取り組み、政府や評論家の意見待ちではなく能動的に業界を変えていこうとする鈴木会長率いる株式会社nexusだからこそ、保育士の安定的な生涯雇用の実現に大きく寄与するに違いない。
話しを聞いた人:鈴木豪(すずき ごう)
鈴木豪(すずき ごう)
株式会社nexus 代表取締役会長。
“「何を」するかより「誰と」するかにこだわる”という経営理念をもとに、一度仲間になった人とはとことん向き合い、生涯を懸けて大事に守っていくという強い覚悟を持ち、memorytree保育園を運営している。
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