生活費の中でも、特に負担の大きい家賃。保育士のお給料で支払っていけるのか?という不安から、別の職業を選ぼうと考える人もいるかもしれません。
そんな方にぜひ利用して欲しい制度が「住宅補助」です。近年の保育士不足を受け、福利厚生の中に住宅補助をつける保育園が急増しています。
今回のコラムでは、「宿舎借り上げ制度」と「住宅手当」の2つの住宅補助を例に挙げ、受け取れる手当金額と制度についてまとめました。
2つの住宅補助「宿舎借り上げ制度」「住宅手当」の違いとは?
「宿舎借り上げ制度」と「住宅手当」。福利厚生の中でよく見るワードですが、この2つは微妙に意味合いが違います。
住宅を借りる契約者(窓口)が違う
どちらも基本的には、職員が会社の補助を受けながら、職場に通いやすい距離の住宅に住む制度です。
異なるのは、その住宅の「契約者(窓口)」。
宿舎借り上げ制度の場合は、会社が賃貸住宅を契約し、社員に住んでもらいます。敷金・礼金、家賃の負担がどうなるかは会社の規定によるので一概には言えませんが、自分で全てを契約して住むよりは遥かに安く住めるでしょう。
住宅手当の場合は、普通の一人暮らしと同様に賃貸住宅を個人で契約し、月々にかかる家賃の一部を会社がお給料として支給してくれます。
住宅手当の方が税金の負担は大きい
宿舎借り上げ制度と住宅手当では、物件の契約者が違うので、月々の家賃の支払い方法も変わってきます。実は、その違いによって税金の負担額が変わってきます。
基本的に、宿舎借り上げ制度は家賃の一部を社員から徴収して「会社が支払う」。
住宅手当は、社員にお給料として家賃の一部を支給し「個人が支払う」。
会社が支払う家賃は非課税対象ですが、家賃補助として支給した「お給料」は課税対象となってしまいます。
そのため住宅手当を利用すると、実質的なお給料が増えたとみなされ、所得税や社会保険料も増加してしまうのです。
実際の手当金額がいくらなのかにもよりますが、もし仮に同じ金額を補助してもらうなら「宿舎借り上げ制度」を利用した方が、会社にとっても職員にとっても税金の負担は軽くなります。このため、住宅補助のある保育園の多くが「宿舎借り上げ制度」を利用しています。
では次に、宿舎借り上げ制度と住宅手当、それぞれのメリットとデメリットについて見ていきましょう。
宿舎借り上げ制度について
メリットは、費用の負担が少ないこと
宿舎借り上げ制度の契約者は会社です。
そのため、初期費用や更新料を支払うのは、基本的に職員ではなく会社になります。契約の窓口も会社なので、手続きの手間を多少省けるでしょう。
また、前述したとおり家賃に税金はかかりませんので、住宅手当と比較して給与の手取り金額が上がります。
もともと一人暮らしをしていた方は、会社の許可が下りて契約者を個人→法人に名義変更すれば、そのままそこに住み続けられる可能性もありますよ。
デメリットは、物件が基本的に会社のものだということ
契約者が自分ではなく会社になっていることで、生まれるデメリットもあります。
「宿舎」という言葉が付いていると、物件は選べないイメージがありますが、「宿舎借り上げ制度」の場合は基本的に好きな住宅を自分で選ぶことができます。
ただし、どんな物件でもOKというわけではありません。法人と契約を結べないマンションがあるので、会社側がある程度候補を絞っている場合もあります。
保育園との距離があまりに遠いときも許可は下りにくいでしょうし、ペットの飼育を認めてもらえないこともあります。「家賃〇万円まで」など制限が設けられているときは、限度額を超えた金額を自分で支払わなくてはなりません。
入居後に物件が損傷し修繕費が発生する可能性もあるので、事前に契約書をよく読んで、詳細な金額ついて会社とよく相談しましょう。
宿舎借り上げ制度を利用していた保育園を退職する場合は?
「社員寮」や「宿舎」は、社員が住むのを前提に契約が交わされています。退職後は資格を失いますので、必ず退去しなくてはいけません。
では今回の「借り上げ宿舎」はどうなるのでしょうか?
会社の規定によりますが、基本的には退去するケースが多いようです。ですが、会社と不動産会社に交渉し、契約者を法人→個人に変更すれば住み続けられる場合もあります。
次の転職先が決まっていて、なおかつそこも宿舎借り上げ制度に対応してもらえるなら、前の会社→次の会社に名義を変えられるか聞いてみるのもよいでしょう。
ただし、担当者によっては快く思われないかもしれないので、交渉は手順を踏まえ慎重に進めましょう。
宿舎借り上げ制度を実施する自治体が増えている!
この宿舎借り上げ制度は、市区町村単位で実施している制度です。そのため、園の所在地の市区町村が対応していなければ、制度を利用することはできません。
ただし現在、地域で働く保育士を増やして待機児童問題を解消するため、こうした保育士の住宅補助を支援する自治体が増えています。
東京都の宿舎借り上げ制度は、上限82,000円までの家賃を、国・都、区市町村、事業主で分担して補助していきます。勤務年数や契約の名義など、区によって細かい規定がありますが、金額を更に上乗せしている区もあるので、就職先を探す際にはよく確認しましょう。
横浜市でも同様の金額で宿舎借り上げ制度を実施しています。
平均家賃の高い都市部が中心にはなりますが、自己負担0~1割で部屋を借りることができれば、生活にはかなり余裕が出るのではないでしょうか?
「社員寮」「社宅」について
最近は減少傾向にありますが、会社が社員に直接住居を用意する「社員寮」と「社宅」にもふれておきます。この2つは「社員が利用する物件」としてあらかじめ住居が固定されていることが多いです。
社員寮の場合は管理人さんや栄養士(調理師)さんが働いていて、朝・夕の食事を用意してもらえるところもあります。門限や食事時間など一定の制限が設けられることもありますが、職員同士が近い距離で接することができたり、バランスのある食事で生活習慣を整えやすい、上京したばかりの方でも人とコミュニケーションが取りやすいなど、集団生活ならではのメリットがあります。
住宅手当について
もうひとつの住宅補助「住宅手当」の長所と短所にふれていきましょう。「家賃補助」と言われることもありますが、意味は同じです。
メリットは、契約が個人なので自分の裁量で住める
住宅手当の最大の長所は、好きな物件を自分で選んで自由に選べるところです。
会社によって多少の制限があることもありますが、住宅手当の場合は、あくまで個人と不動産会社の契約なので、ほとんど自分の裁量で住むことができます。
現在の住まいでそのまま手当を受けることもできますし、保育園を退職したあと引っ越す必要はありません。
デメリットは、宿舎借り上げ制度に比べて費用が高い
住宅手当のお金はお給料として振り込まれるので、税金の負担が大きくなります。
また、会社との契約内容によりますが、入居するための初期費用や更新料などは直接契約してる本人が支払う場合が多いので固定費がかかります。
住宅手当の平均額は1万円~2万円
家賃補助の手当金額は、平均して1万円~2万円というところが多いようです。
自治体の保育士向け住宅補助を検索すると「家賃補助」という言葉が出ることがありますが、そういったお金は概ね働く本人ではなく会社に支払われます。「園が借り上げている住宅」を対象にしているケースがほとんどなので注意しましょう。
まとめ 保育士の生活を助ける住宅補助
保育士の待遇を改善するため、住宅補助を付帯する園は増えています。
多少のデメリットはありますが、金額的には宿舎借り上げ制度を利用する方がお得です。
園の規定によっては、結婚して家族が増えてからも宿舎借り上げ制度を利用できたり、持ち家になってからも住宅手当を受け取れる場合があります。契約は保育所ごとに異なるので事前によくチェックしましょう。
保育士の生活を助ける住宅補助。福利厚生で導入されている際には、ぜひ有効活用してくださいね。