2015年よりスタートした小規模保育事業をご存じでしょうか。待機児童の解消を目的として低年齢児を対象に保育を提供するものですが、児童福祉法における認可保育所とは位置づけが異なるようです。今回は、小規模保育事業とは何か、厚生労働省が定める認可基準や従来の保育所との基準の比較について紹介します。
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小規模保育事業とは
小規模保育事業とは、市町村の認可を受けて児童福祉法に位置づけられている保育事業です。
2015年の「子ども・子育て支援新制度」のなかの地域型保育事業の一環としてスタートしました。
では、具体的にどのような目的や特徴があるのでしょうか。
事業の目的
小規模保育事業は、待機児童対策など地域が直面する保育の実情に応じて、柔軟に活用できることを目的としています。
また、多様な事業者がさまざまな場所を活用して質の高い保育を提供することもコンセプトとして掲げており、「多様性や柔軟性」と「質の確保」が両立した保育の提供を目指す事業と言えるでしょう。
特徴
小規模保育は、子どもの受け入れ定員が6人から19人と定められており、家庭的保育に近い雰囲気のもとできめ細かな保育が行われるのが特徴です。また、対象年齢は原則0歳児から2歳児となっています。
多様な事業からの移行を想定してA型、B型、C型の3類型に分類されており、それぞれ認可基準が設定されています。
つまり小規模保育事業は、待機児童の8割以上を占める3歳未満の子どもを預かる施設をスムーズに増やし、地域の待機児童の解消に重点をおいた内容になっている事業と言えるでしょう。
小規模保育事業の連携施設について
小規模保育事業は定員が少人数かつ年齢も限られていることから、卒園後の受け皿となる連携施設(保育園や認定こども園など)を設定することが決められています。
ここでは、くわしい連携施設の役割と現状についてまとめました。
役割
小規模保育事業が確保する連携施設は、主に以下の3つの役割を担っています。
- 集団保育の体験:乳幼児に集団保育を体験させるための機会の設定や、保育の適切な提供に必要な助言・支援を行うこと
- 代替保育の提供:職員が保育サービスを提供できないときに代替保育を提供すること
- 卒園後の乳幼児の受け入れ:乳幼児の卒園後、保護者の希望に基づいて引き続き保育や教育を提供すること
小規模保育を利用した子どもたちに対し、卒園後も継続して適切な保育が行われるようにするために連携施設は重要な役割を果たしています。
現状
厚生労働省の資料によると、2019年4月時点で連携施設を設定している小規模保育事業A型の施設は3438カ所、B型は591カ所、C型は90カ所となっており、半数以上の事業者が連携施設を確保している状況です。
連携施設の設定については経過措置が取られており、確保が著しく困難であり適切な保育支援が行えると市町村によって認可された場合、2025年3月31日まで設定しなくてもよいこととされています。
特に東京都や大阪府などの大都市では、待機児童数が多いため連携施設が確保できないという問題があります。そこで、国家戦略特区内に限り、小規模保育事業の入園対象年齢を0歳児から5歳児まで拡大するという特例措置を設けることが決定されました。(国家戦略特別区域法改正による児童福祉法等の特例)
これにより、一部地域の園では対象年齢を広げて子どもを預かれるようになっています。
出典:家庭的保育事業等の連携施設の設定状況について(平成31年4月1日時点)/厚生労働省
出典:国家戦略特別区域法(平成二十五年法律第百七号)/e-GOV法令検索
小規模保育事業と認可保育所の認可基準の比較
先述したように、小規模保育事業は児童福祉法において児童福祉施設として位置づけられている認可保育所とは法令上の位置づけが異なっています。では、具体的にどういった違いがあるのか比較してみましょう。
小規模保育事業と認可保育所の認可基準
小規模保育事業と認可保育所の認可基準について、以下の表にまとめました。
小規模保育事業と認可保育所では、施設の職員数や職員資格の基準が異なります。次で認可基準の違いについてくわしく見ていきましょう。
認可基準の違い
認可保育所と比較して、小規模保育事業の認可基準には以下のような特徴があります。
- 職員の配置基準が認可保育所よりも多い
- 保育士資格を持たない人も職員として働くことが可能
- 給食が連携施設から搬入可能
認可保育所の場合、保育士を最低2名以上配置することとされていますが、小規模保育事業B型やC型の場合、職員資格についてよりゆるやかな基準が設けられています。
具体的には、市区町村の研修を修了し保育士以上の知識や経験があると認められれば、保育士資格を持っていなくても働くことができるようになっています。
ただし、職員の人数については認可保育所よりも多く配置することが定められているので、保育の質は十分確保されるでしょう。
出典:子ども・子育て支援新制度ハンドブック(平成27年7月改訂版)/内閣府
小規模保育事業で働くメリット・デメリット
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小規模保育事業とはどのようなものか分かったところで、保育士として働くうえでどのようなメリットやデメリットがあるのか見ていきましょう。
メリット
一人ひとりに寄り添った保育ができる
小規模保育を実施する園は、認可保育所よりも多く職員が配置されています。そのため、保育士さんが一人ひとりとじっくり向き合い、手厚く保育できるというメリットがあるでしょう。
受け入れ人数も少ないためしっかりと子どもの様子を見守ることができ、適切なサポートや声かけをしやすくなりそうですね。また、子どもを見る大人の目が増えるので、事故やケガを未然に防ぎやすくなるかもしれません。
アットホームな環境で寄り添った保育をしたいという方に向いていると言えそうです。
大規模園より行事の負担が少なめ
小規模保育を実施する園は、施設が小規模であることが多く、大きな行事が少ない傾向にあるようです。
もちろん園によって異なりますが、受け入れ年齢が0歳児から2歳児と低年齢ということもあり、行事があったとしても大掛かりになることは少ないかもしれません。
行事が少ない分、それに伴う会議や準備などの負担も減るため、より保育に集中できるというメリットが挙げられそうですね。
保育士資格を持っていなくても働けることも
小規模保育事業B型、C型を実施している園では保育士資格を持っていない方でも働くことができるというメリットがあります。
先述したように、無資格であっても指定の研修を修了し市町村長に認められれば、家庭的保育者として保育にあたることができます。もちろん、認可保育所でも無資格で保育補助として働くことができますが、任される仕事内容が限られるかもしれません。
小規模保育園であれば、保育士資格の取得を目指しながら働くこともできそうですね。
デメリット
幅広い年齢の子どもと関わることが難しい
小規模保育のデメリットとして、かかわりをもつ子どもの年齢が限られてしまうことが挙げられます。
主に0歳児から2歳児を受け入れ対象としているため、幼児保育など幅広い経験を積むことが難しいでしょう。一斉保育や異年齢保育などを経験したい方にとってはマイナスポイントかもしれません。
しかし、乳児保育を専門的に経験していきたい方にはぴったりな環境と言えるでしょう。
大規模園と比べて設備が整っていないことも
小規模保育園では限られたスペースで保育を提供しているため、園庭や屋外遊技場がないケースもあるようです。
その場合、外遊びをする際は付近の公園や広場などに行く必要がありますが、園によっては外遊びできる環境が周辺にないこともあるかもしれません。
したがって、園庭でのびのびと外遊びをさせたい方などは、理想の保育が実現できない可能性もあります。園選びをするときは、施設設備についてもしっかり確認するとよいですね。
子どもの成長を最後まで見届けられない
小規模保育園は原則2歳児までしか受け入れられないこととなっており、3歳からは連携施設やその他の保育園へと転園することになります。
そのため、赤ちゃんの頃から成長を見てきた子どもたちを、小学校入学まで見届けることができないという点で寂しさを感じることがあるかもしれません。
年長さんになるまで見守りたいという方にはとってはマイナスポイントになってしまうでしょう。
小規模保育事業で働くことを視野に入れてみよう
今回は、小規模保育事業とはどのようなものか、事業の目的や役割と、保育士として働くうえで知っておきたいメリット・デメリットなどを紹介しました。
小規模保育事業は、地域の多様な実情に柔軟に対応しながら、特に深刻な低年齢児の待機児童の解消を図ることを目的として実施されています。
児童福祉法によって定められている認可保育所とは位置づけが異なり、定員数や対象年齢のほか、職員資格などさまざまな面で違いがあります。
小規模保育園には、幅広い年齢の子どもとかかわることが難しいといったマイナスポイントがある一方で、一人ひとりに向き合って保育できることや、保育士資格を持っていなくても働けるといったメリットもあります。
小規模保育事業についての理解を深め、転職先の視野を広げてみてくださいね。