補助金や助成金などを進呈する保育士向けの支援制度。待機児童の解消や保育士の人材確保を目的として、国や自治体はさまざまな事業を行っています。今回は、現役保育士さんやこれから働く方が利用できる家賃補助や待遇改善など、2021年時点で実施されている制度について紹介します。また、自治体独自の事例もまとめました。

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■目次
保育士向けの補助金・支援制度が導入された背景
未だ解決しない保育士不足。待機児童解消のために保育園が新設される動きがある一方で、保育士さんが足りていないようです。
人材不足の背景には、体力面での不安や休暇のとりにくさなどさまざまありますが、なかでも給与の低さが最も大きな原因として挙げられます。
「子どもが好きで保育に携わりたい」「待機児童の解消に役立ちたい」などの気持ちがあっても、給与面や仕事量を理由に就業を諦める方がいるのが現状のよう。
そこで国や自治体は、深刻な保育士不足を解消するため、補助金や助成金などのさまざまな支援制度に取り組んでいます。
現役保育士向けの補助金・支援制度
まずは、現役保育士さん向けの補助金や支援制度について見ていきましょう。
待遇改善
保育士等キャリアアップ補助
保育士等キャリアアップ補助とは、保育の質を高めることを目的に東京都が実施する支援制度です。
保育士さんがキャリアアップするには、園が保育士育成研修などを実施する必要があります。そういった研修費用の一部を国が補助し、園の保育サービスの質の向上や給与のベースアップを目指します。
保育士さんに直接補助金が支給されるわけではないものの、キャリアアップすると手当が加算されるため、待遇改善が見込めるかもしれません。
処遇改善等加算Ⅱ
処遇改善等加算Ⅱとは、新しい役職を設置してそれに応じた手当を設け、保育士さんのキャリアアップを支援する事業です。
これまで保育士さんには、園長先生や主任など限られた役職しかなかったため、役職を新設することでキャリアパスを明確化するとともに、保育士の待遇改善や質向上を目的としています。
役職に就くには自治体ごとに実施される指定の研修を受講する必要がありますが、研修を受ける際の負担を考えて2021年度までは研修要件を課さず、2022年からの運用開始が目指されています。
出典:処遇改善等加算Ⅱの研修修了要件の必須化時期の取扱いについて/内閣府
家賃補助

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家賃補助には、園が国や自治体から補助金を受けられるものや、保育士さんが園から直接受け取れるものがあります。それぞれについて紹介します。
保育士宿舎借り上げ支援事業
「保育士宿舎借り上げ支援事業」とは、園が保育士さんを住まわせるために物件を借り上げた場合、その家賃の全額または一部を国や自治体が補助する事業です。
金額は自治体によって異なりますが、月額最大8万2000円の補助を受けられます。
管理費や礼金、更新料が不要となるケースもあるため、入居の初期費用や月々の負担を軽減できるのがメリットでしょう。
ただし、対象者は採用された日から起算して10年以内の保育士さんです。また、物件選択の自由は認められず、園が借り上げている指定物件に対する入居が条件となります。
この事業はいつまで継続されるか明確になっておらず、今後縮小される可能性もありますが、さいたま市や世田谷区など一部地域では2021年度も継続して実施されました。
ちなみに、園によっては同棲していたり結婚していたりする場合はもらえない可能性があるため、詳細は就業規則で確認しましょう。
自治体の住宅支援制度
自治体の住宅支援制度は、自治体が主体となって保育士宿舎借り上げ支援事業に沿い、独自の補助を行うものです。
自治体によっては、保育士宿舎借り上げ支援事業の対象外となる保育士さんに向けた補助を行っているところもあるようです。
園からの家賃補助
園からの家賃補助は、住宅手当として月々決まった金額が園から支給されたり、一定の割合の金額を園側が負担したりする補助金のことを言います。
いくら支給されるかは、園によってさまざまなようです。
このような家賃補助は園独自で導入されているため、手当として直接保育士さんに支給されます。
たとえば、月給20万円で住宅手当が月に2万円支給される場合、実質22万円支給されているのと同じになります。
今後就職・復職する予定の保育士向けの補助金・支援制度
今後就職・復職する予定のある保育士さん向けの支援制度を紹介します。
保育士就職準備金貸付
「保育士就職準備金貸付」とは、「保育士登録をしてから1年経過している方のうち、保育施設に勤務したことがない」または「離職から1年以上経過している方」を対象として、就職に必要な準備金を貸付ける制度です。
最大40万円を無利子で貸付けてもらえるので、就職のための引っ越しなどの準備に利用できるでしょう。
自治体が指定する保育所などに2年間程度継続して勤務すれば、返済が全額免除されるメリットがあります。
未就学児をもつ保育士に対する保育料の一部貸付事業
「未就学児をもつ保育士に対する保育料の一部貸付事業」は、子育て期の保育士さんの就労を支援するために、子どもの保育料を無利子で貸付ける制度です。
就職・復職してから1年間を限度に、保育料の半額の貸付を受けられます。(ただし月額上限あり)
補助額は自治体によって異なりますが、指定の勤務先に2年間程勤務すると返済が全額免除されます。
自治体による保育士向けの補助金・支援制度の事例

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続いて、自治体が2021年時点で独自に行っている保育士向けの支援制度の事例を紹介します。
東京都千代田区の事例
千代田区は、奨学金を利用して保育士資格を取得し、現在奨学金を返済しながら区内の保育施設に勤務している保育士さんを対象に、返済費用の一部を補助しています。
対象となるのは、保育士養成施設を卒業して保育士資格を取得し、雇用契約が1年以上で、1日6時間以上かつ週20時間以上勤務する保育士さんです。
年間24万円までが補助対象となり、最長10年間、補助額は最大240万円までとなっています。
東京都江戸川区の事例
江戸川区では、区独自の補助金1万円を給与に上乗せしています。
また、常勤保育士として正規採用された方を対象として、勤続5年ごとに10万円の報奨金を支給しているようです。
埼玉県さいたま市の事例
さいたま市では、保育施設の運営改善と職員の待遇改善を図ることを目的として、保育所を運営する社会福祉法人などを対象に市独自の上乗せ補助を実施しています。
常勤職員1人あたり年額19万3500円(月額1万500円×12カ月+期末手当6万7500円)を加算しているようです。
千葉県船橋市の事例
船橋市は、市内の保育園などで働く保育士さんに手当を支給しています。月額給与だけでなく賞与への上乗せもあり、年額58万5460円が加算されます。
また、年数は関係なく勤務開始1年目から支給され、正規職員だけでなくフルタイムのパート職員も対象のようです。
このように、独自で支援制度を行っている自治体はさまざまあります。くわしくは各市町村のホームページを調べたり、直接問い合わせたりしてみましょう。
保育士向けの補助金・支援制度における注意点

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最後に、保育士向けの支援制度を利用する際に知っておきたい注意点を紹介します。
自治体によって導入している支援制度は異なる
全国的に慢性的な保育士不足と言われていますが、深刻度は地域によって異なります。そのため、自治体によって導入している支援制度が異なることを念頭に置きましょう。
県や市独自の支援制度は、主に首都圏や、大阪府、福岡県といった主要都市で手厚い傾向にあるようです。実際にどのような制度が導入されているか、事前に調べるとよいですね。
保育士に直接支払われない補助金もある
保育士支援制度の中には、国・自治体から保育園に対して助成金や補助金が支払われ、保育士さんは直接もらえないケースがあります。
助成金や補助金は、園の保育士1人に対していくら、という形で支給されているものもあり、保育士さんへの支給方法は事業者に委ねられているようです。
そのため、「補助額が月額〇〇円だと聞いていたのに、給与としてもらえない」などの事態も起こり得るかもしれません。
どのように補助金が支給されるのかあらかじめ把握しておくこともポイントです。実際に手当としていくら加算されるかなどは、事前に園に確認しておきましょう。
保育士向けの補助金・支援制度を把握して、上手に活用しよう
今回は、保育士向けの支援制度や補助金、2021年時点で実施されている自治体の事例などを紹介しました。
国や自治体は、保育士人材を確保するために、家賃補助や待遇改善などさまざまな支援を行っているようです。
ただし、自治体によって補助金の支給方法や細かい条件は異なるので、事前に窓口へ問い合わせるなどして確認してみましょう。
どのような支援制度があるのか把握して、上手に活用できるとよいですね。
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